TOP

戦争の体験談を語るわ 

ユーゴスラビア紛争


この文章は2010/05/19の昼から05/23朝方にかけて2chに建てられたスレッドをまとめたものです。 文章の中で筆者(祐希)が言及している通り、文章の真偽については読者自身の判断に委ねられています。

戦争の体験談を語るわ1



夏休みに入っても、去年のように一緒に表立って遊ぶという事は出来なくなっていた。
少しずつではあるけれど、着実のこの国でも民族間の対立、宗教の対立、そして過去の負の因縁の対立が次第に高まってきていた。大人たちは違う民族間で極力話さないようになっていたし、話してはいけない雰囲気になっていたんだ。

【ドラガンだけがセルビア人なのか。 】

【うん。実際、俺達の地域は5割くらいがボシュニャチで、4割がスルツキ、1割がフルヴァツキみたいな感じだったと思うんだ。だから、俺の地域では少なくともスルツキは少数派ではなかったよ。 】

父さんは、もしかしたら戦争になるかもしれない。お父さんは仕事をやめる事が出来ないが、祐希は日本へ帰りなさい。って何度も言われた。でも、俺は友達を残して自分だけ日本に帰るなんて出来なかった。それに戦争というものを理解していなかったんだ。
戦争にならないようにすればいいでしょ。そんな風に思っていた。

基本的に同じ民族、殆ど同じ宗教の人々が暮らす日本で育ったから、理解できなかったんだ。民族間の対立というものを。子どもだったしね。

【親父の仕事聞いてもいい? 】

【研究者だった。といっても、自然科学系だったんだけど、資料がある部屋とかには入っちゃ駄目って言われたりしてたから、ボスニアの研究機関で仕事してるってことしか知らなかったよ。 】

そして9月になった。今まではフルヴァツキの軍とフルヴァツカ在住のスルツキの人々との衝突だった紛争が、9月末頃にはフルヴァツカ軍とスルツキを主体としたユーゴ連邦軍の戦争へと発展したんだ。

この国では、ボシュニャチが人口の過半数を占めていて、俺の住んでいたカリノヴィクも例外じゃなかった。
日が経つに連れて、街の中ではフルヴァツキとスルツキの人々の関係が悪化して、時々通りで大人同士が喧嘩をするようになってきていたんだ。

そして10月に入ると、ボシュニャチが大半を占めるこの国では、連邦から脱退しようという声が広がって、ついに政府が主権宣言みたいのをしたんだ。つまり、連邦内の国家じゃなくて、一つの独立した主権を有する国家となるという宣言なんだ。

父さんから説明されても、当時は理解できなかったけれどね。
その宣言によって、街の中はさらに緊迫した状況になった。
学校の中でも、子どもであるにも関わらず、民族どうして一緒に行動して、そして喧嘩が起きたりしていたんだ。つい最近までは一緒に遊んでいたのに。

【横文字が多くて頭が痛くなってきたがまだ大丈夫だ進めてくれ! 】

【ちょっと違和感あるけど、日本語の読み方で書くように努力する。 】

街や学校、恐らく国内全域で、フルヴァツキ(クロアチア人)・ボシュニャチ(ボスニア人)とスルツキ(セルビア人)の間で緊迫した状況になっていたんだと思う。
親には外で遊ぶのは辞めなさいと言われるようになっていたし、一緒に遊んでいた8人も親から同様の事を言われていた。

大人は、例え子どもであったとしても、他民族の子には冷たくするようになってきていた。
今の東京の比じゃないくらい、寂しく悲しい街へと変わっていたんだ。

年が明けて1992年になっても、状況は好転せず、ますます混迷を極めてきていた。
民族ごとに武装の準備を始めたり、時には街中で銃を持ってあるく市民も出始めていたんだ。
初めて目にする銃は、とても怖かった。でも非現実的な光景に見えて仕方が無かったんだ。
まさか、そんなのを使うわけ無いでしょってね。

【フルヴァツキとスルツキが対立してるのは分かったけど、この時のボシュナチの立場ってどういう状況なんだ?
よく分からなくてごめん 】

【俺もこの時は何でボシュニャチ(ボスニア人も?)って思ったんだよ。
だけどさ、最初のフルヴァツカ紛争(クロアチア紛争)の発端は、どっかの競技場?でボシュニャチ(ボスニア人)がスルツキ(セルビア人)を殺してしまった事から始まったらしい。
勿論、それ以前から問題はくすぶっていたんだけど、それが爆発するきっかけを作ってしまったんだ。

そして、第二次世界大戦中、ボシュニャチ(ボスニア人)も、スルツキ(セルビア人)を殺してたんだよ…。

そして、今から書くけど、連邦からの独立をセルビアは反対していた。そしてボスニア・ヘルツェゴビナのセルビア人も。しかし、ボスニア人とクロアチア人は独立に賛成していたんだ。 】

【祐希は何故そこまで日本に失望したのか後で教えてくれ 】

【日本には失望していないよ。
自分に失望しただけ。 】

そして2月に入って、ついに独立の国民投票が始まった。ドラガン達のようなスルツキ(セルビア人)の人々は、この投票に怒りをあらわして、投票を棄権したんだ。
それと同時に、俺達が住んでいた地域はスルツキ(セルビア人)や連邦軍によって、ボスニア・ヘルツェゴビナからの離脱が表明されたんだ。

つまり、連邦からの独立に反対する人々と、独立を推し進める人々によって、俺達が居た国は三つの勢力にわかれた。言うまでも無く、ボシュニャチ・フルヴァツキ・スルツキの民族ごとの三勢力にね。

【クロアチア人も独立に賛成していのか 】

【賛成していた。だからこそ、クロアチアとしてユーゴから独立を宣言して、クロアチア紛争が始まったんだ。
そして、ボスニア領内でも、彼らは自分達の国を作ることを望んでいた。

自分達の国を持って、自分達で国を動かし、自分達が自分達を支配する。それが最も安全だったんだ。 】

【今時間ないんだけど、夏なり冬なりにこれサウンドノベル化してもいい?
誰かから金とったり戦争を茶化したりしないから。 】

【何に使ってくれても構わないよ。転載してくれても、それでお金を儲けてくれても構わない。
俺はたとえ少数であっても、伝えることが出来ればいいから。
何かを作る時には、やっぱり時間と労力がかかると思う。
作ったのであれば、それはもう貴方のものだから、それに対する報償が生まれるのは当然だと思うよ。
こんな暗い話でお金儲けるなんて無理だと思うけどね・・・。 】

つまり、俺達が住んでいた国、即ちボシュナは連邦から独立を宣言したんだ。
それと同時に、このボシュナは三つの国にわかれた。

一つはボシュニャチの人々のボシュナ。もう一つはフルヴァツキの人々のヘルツェグ=ボシュナ。
そしてスルツキを中心とするスルプスカに。俺達の居たカリノヴィクはこのスルプスカの領内だったんだ。

この時点で、もうこの国において、民族同士の衝突、戦争は避けられない状況になっていた。
俺達の街からも、首都サラエヴォに向けて脱出する人がちらほらと出てくるようになった。
あ、脱出したのはボシュニャチの人々ね。

ただ、まだ血で血を洗う戦争には発展していなかった。スルプスカ共和国(セルビア人共和国)となったとはいえ、実際にそれを世界に向けて宣言したわけでもないし、まだ平和的に解決出来るかもしれないという希望があった。
俺はまだ小さくて理解しきれていなかったのだけれど、こんな状況でも9人でこっそり会い、秘密基地で遊んだり出来ていた。以前のように堂々と遊ぶことが出来なくなっても、俺達の友情というか結束みたいのは少しも崩れて無かったんだ。むしろ、大人たちや周りから、もう遊ぶなって言われれば言われるほど、強くなっていったように思う。

こっちもスレッドがストップしたら、恐らくもうそういった運命だと思うので、書くのは辞めるね。

【なんで50行まで書き込めるのにフルに使わないの?ねぇ馬鹿なの? 】

【データを間違えて上書きしてしまったから、原稿用紙の文を要約しながら書いてるんだ。
原稿用紙の文そのままだと↓こうなってしまうし、原稿用紙の文は入力しなおしてて、まだ今話してる所まで追いついていないんだ。


原稿用紙の文そのままのやつね。まだ今話している段階に追いついてない↓

 お読みいただく前に

 これから書き進めていく体験談は、筆者が可能な限り客観的な視点に基づきつつ書き記したものである。フルヴァツカ紛争やスロベニア紛争に端を発した一連の所謂ユーゴスラビア紛争に関して、筆者はどの国家・民族・宗教・勢力に対しても賞賛や批難・中傷を行う旨はないと予め表明しておく。
 これから読み進めていく読者の中には、見知らぬ言葉や表現を多々目にすると思われるが、それに対して出来る限りの補足を付け加えていく。この中では、多くの歴史的背景や宗教が絡むが、どうか一つの物語のように読んでいただけると本望である。
 なぜなら、これは戦争の悲惨さや愚かさを伝え、平和主義の啓蒙を行う為のものではなく、そこで何が起きたかを一つの体験談として記し、読者の方々に何かしらのものを感じて頂きたいからである。そして、一般的なマスメディアが活字や映像といった媒体を通して語りかけてくる途方もない情報群の中において、絶対というものはないという事を感じていただきたい。戦争とは悪であるかもしれない。しかし、戦争において絶対的な悪というものは存在し得ないのだ。全ての勢力や人々に、各々が信ずる正義や大義名分というものが存在しており、それがぶつかり合い、折り合うことが不可能になる故に戦争が形となって現れてくるのだ。以上の事を、どうか読み進めていく前に考えて欲しいのである。


 はじめに

 これから先読み進める前に、読者の方々へは登場する人物がどのような結末を迎えるか先に記しておく。

 ソニア…彼女はスルツキ(セルビア人)民兵によって殺害される。
 サニャ…彼女は爆発に巻き込まれ死亡する。
 メルヴィナ…彼女はスルプスカ警察によって強姦された後、連行される。
 メフメット・カマル・ミルコの三名は行方不明となり、生存は未だ不明である。
 カミーユ…彼もまた、スルツキ(セルビア人)民兵によって殺害される。
 ドラガン…彼は裏切り者であったと筆者は誤解をしていた。


 本章  第一部

一、始まりの日

 年は先帝の昭和天皇が崩御あらせられた日より一年程経過した頃である。保育園卒業を間近に控えていた私は、卒園式にて披露する歌の練習を行っていた。その後、練習が終わり多くの園児が母親の迎えによって帰宅したのであるが、私は一人教室内にて紙ヒコーキを作り、絵を描きながら母親の迎えを待っていた。私の母は、設計事務所においてパートタイムの仕事に勤めており、保育園へ迎えに来る時間は大変遅かった。この日も、迎えの時間は夕方の六時をとう当に過ぎており、途中から保育士である先生と共に待っていた。この時間にもなると、保育園に残っている園児は私一人になっており、母の迎えをまだか、まだかと心待ちにしながらそわそわしていた覚えがある。

 以前は、私が当時楽しみにしていた戦隊シリーズであるターボレンジャーが、保育園の休みの日である土曜日に放送されていた為、待つ寂しさはあれど不満というものはなかった。しかし、放送の途中より金曜日の五時過ぎへと放送曜日・時間が変更されてしまい、私はこの楽しみにしていた番組を見る事が出来なくなってしまったのだ。当時においては、ソニーより発売されていたベータシリーズのビデオデッキが自宅にはありはしたが、予約機能のような多機能搭載の機種ではなく、私はなくなくシリーズ途中から番組の視聴を諦めざるを得なかった。

 この日も曜日は金曜日であった。
「今日だけでもいいから。母さん早く迎えに来て。」
そのように祈っていた記憶が残っている。しかし、夕方五時を過ぎ、六時になり、普段と変わらない時間にまでなってしまったのだ。

「ああ。今日もか。」

そう考え、私は保母である先生に駄々をこねてしまっていたかもしれない。少しばかり時間が経過した頃であった。私は普段と違う異変に気がついたのだ。普段の日であれば、例え仕事が長引いてしまったとしても、母は六時半過ぎには迎えに来ているはずなのだ。しかし、私が時計に目をやると時計の針は既に七時近くを指していたのだ。先生も私と同様に異変を感じたのであろう。

「今日はお母さん遅いね。」 】

そして3月後半になってくると、首都サラエヴォの方でスルツキの民兵達が何かをするらしいという噂が、街で耐えなくなった。とはいっても、この時はまだ民兵という言葉自体を理解していなかったから、何かあるんだーといったような感じで、気にも留めていなかったんだ。

4月に入って、どうやらボシュナが国連に加盟するといった情報が流れてきた。
その意味が理解できなくても、周りの大人たちが深刻そうに、そして民族ごとに緊迫した空気を出している事から、俺達子どもも、かなり不安になってきていた。俺達子どもは、昔この地域でおきた民族同士の争いや悲惨な歴史を殆ど知らなかったんだ。

【実話詐欺の手法はもう限界かもしれない 】

【よくわからないけれど、これは俺の妄想だと思って読んでくれて構わないんだ。
それをどう判断するかは、全て読んでくれた人次第だからさ。
俺にとっては、書ければそれだけで十分だよ。信じてもらえなくても、それがここだけで終わろうともね。 】

特に、親からそういった事を聞かされる機会があるはずもない日本人の俺には、こうした状況を理解できるはずもなかった。
だけど、俺以外の8人は、ある程度理解しているみたいだった。
ドラガンが「何か起きたら、一旦皆で秘密基地に集まろう。俺達はずっと仲間だ。」みたいな事を言っていた。皆も「うん。そうしよう。」って相槌を打って、約束したんだ。約束したんだよ。

父さんは、この緊迫した状況を考えて、俺だけでも日本に帰国させようとしていた。
当然、俺はそれを断固拒否するだろうと考えたらしく、俺には内緒で、仕事でサラエヴォに行くと言って、俺をソニアの家に預けたんだ。今思えば、あれは俺を一人残して、航空券を買いにいったんだと思う。
一人だったのは、サラエヴォが危険だったからなんだろうな…。
「明日になったら、帰ってくるから、いい子にしていなさい。」と言ってた。

翌日の4月5日だったな。俺は父さんが帰ってくるまで遊んでいようと思って、秘密基地でいつものように遊んでたんだ。
ただ、この日に限ってドラガンだけは来なかった。用事があるとか言って。
夕方近くになった頃だった。街の方から大きな音がしたんだ。皆びっくりして、急いで丘を駆け上がったんだよ。そしたら、街から黒い煙が上がっていて、時々小さな乾いた甲高い音が聞こえてきてた。俺は何の音かわからなかったんだけど、ミルコが「銃の音だ!」って叫んだんだよ。

血の気が引いたのを覚えてる。ソニアやサニャ達はおろおろして泣き出しちゃってさ。
ミルコやメフメット、カマルは家に帰らなきゃって叫んで、街に向かって走っていった。
止めればいいものを、状況が理解できていなかった俺はぼーっと立ち尽くしていたと思う。

多分、30分位そこでぼーっとしていたかな。もっと長くそこで立ち尽くしていたかもしれない。
大きな音を出しながら、何台かの車がソニアの家の方向に向かって来てた。
あれって何だろうって思っていたんだけど、カミーユが「スルツキの奴らだ…。」って呟いたんだ。

ソニアは家に帰ろうとしたんだけど、カミーユや俺で必死に止めた。それで、様子を見ようってことで、カミーユが何時も持ってきていた双眼鏡でソニアの家を覗いてたんだ。
最初は、「スルツキの兵士が家の中に入ってる、外にも何人かいる。」って感じで説明してたんだけど、途中で「あっ。」って言った後、カミーユは何も言わなくなっちゃったんだ。

メルヴィナと一緒に、どうしたの?って何度聞いてたんだけど、何も言わなくてさ。
おかしいな?って思って、少し身をを乗り出して見たんだ。
そしたら、さっきの車二台が俺達の方向に向かってきてるんだよ。

「何で!?何でわかっちゃったの!?」って口々に言ってたんだけどさ、カミーユが涙目になりながら、わからないけど目が合っちゃったって言うんだ。

今考えれば、その理由はすぐわかるよ。でも当時はそんなのわからなかったんだ。
ただ、カミーユは俺のせいだ。俺のせいだ。って泣いてた。

このままだと、もしかしたら俺達は捕まってしまうかもって思ったんだ。考えてみれば、敵かどうかもわからない。それなのに、俺達はもうそのスルツキ達を敵だと思ってた。
多分、あれは直感というか本能的なものだったと思う。だって、味方は銃を持って来ないでしょ。

【双眼鏡の反射か。狙撃手の基本だがガキじゃ仕方が無い 】
【お前何者だよ 】
【いや、双眼鏡で光が反射すると場所バレるじゃん。それかなと思った 】

【そうだったのか…。てっきり相手と目があったからだと思ってた。 】

少しずつ車が近づいてくる音がして、この場所にいるのは不味いと思ったんだ。
俺は4人に急いでこの場所を離れて隠れようって言った。俺は泣いているソニアの手を引っ張って、カミーユとメルヴィナはサニャの手を引っ張って、急いで走った。だけどさ、結局俺達は8歳そこそこの小学三年生ぐらいの子どもだった。例え俺達が必死に走ったところで、逃げ切れるわけがなかったんだ。

200Mくらい離れた小さな木の下に隠れたけれど、ゆっくりと車が近づいてくるのがわかった。
心臓が高鳴って、次第に息苦しくなってきたんだ。頭の中では落ち着け。落ち着けと言っているのに、体中から汗が出てきて、静かにしなきゃいけないのに、鼻から息が吸えなくてさ。口で音を出しながら息をしてた。すぐ隣のソニアやサニャ達は、泣かないように必死に口を押さえてるんだよ。
でも、カチカチって歯の音がしちゃってさ。止めようとしても、その音が止まらないんだ。

正直に言って、俺はもうだめだと思った。殺されるとか、そういうのはまだわからなかったのに、ああ。もう終わった。そんな感覚に陥っていた。多分、皆も同じ感覚だったと思う。
車の音も大きくなってきて、スルツキの民兵達の声も、鮮明な声ではないけれど、聞こえてきた。
何か恐ろしいことを言っていた気がするけれど、恐怖でそれを理解するほど、覚えているほどその時の俺には余裕がなかったように思う。

【スルツキの連中がそこまで過激な手段を取った背景は何なんだろうな
いつも疑問だったわ 】

【それはさ。禍根が次世代に引き継がれるからなんだ。
殺さなければ、殺される。今までの歴史がそれを証明してきた。
じゃあ、子どもは?

子どもはさ、次世代の敵になるんだ。だから、[ピーーー]しかない。
そういう考えなんだ。多分、平和の中で暮らしていたら一生共感出来ない考えだと思う。俺も理解は出来るけど、共感は出来ない。

スルツキだけでなく、フルヴァツキもボシュニャチも同じ考えだよ。
そして、その考えの元で行動した。 】

【そうか やらなきゃいつかやられる状況だったのか
当事者にしかわからない事なんだろうけど、一度タガが外れると想像も出来ない事が起こるんだな 】

【タガは外れてないんだ。皆罪悪感はあるんだよ。でもその罪悪感をも超越する程の、他民族への恐れ、怒りや憎しみがあったんだ。だから、自分達の民族のためと自分に言い聞かせながら殺したりしたんだ。中には本気で楽しんでいた人もいたかもしれないけどスルツキの人たちだけが野蛮で殺戮をしまくっていたってわけじゃないんだ。

現に、それに反対するスルツキもいたんだよ。でも、民族の敵といって、そういったスルツキの人も殺害の対象になってしまったんだ。
戦場の中は、皆普通の心理状態じゃないんだ。もしかしたら、他の民族に同情した同胞が、自分達に銃を向けてくるかもしれない。
それほど疑心暗鬼に陥る状態だったんだ。
今までの歴史とか宗教とかが絡み合って、想像できない状態になってたんだ。 】

見つかるのも時間の問題だったんだ。そしたらさ、少し離れた所に隠れていたカミーユが俺を後ろに引っ張って、小声で囁いたんだ。他の女の子には聞こえないようにしながらね。

「このままだと見つかってしまう。俺がスルツキを引き付けるから、その間に皆を連れて逃げてくれ。」

それを聞いて驚いたよ。そしてもしかしたら助かるかもなんて考えてしまった。でも、それをやったらカミーユはどうなる?
「危ないよ。ここで皆で静かに隠れてよう。」
俺は慌ててそう言い返したんだ。だけど、カミーユは、それだと見つかるって。皆殺されるって言うんだ。
「引き付けた終わったら、後を追いかけるから大丈夫。」
俺はわかったって答えた。もうそうするしかないように思えたんだ。
そしたらカミーユはニコって笑ってさ、良かったって言うんだ。そしてさ、「サニャの事、俺が戻るまで守ってあげてね。」って。

そう言い終わると、俺の返事を聞かずにカミーユは俺達が隠れている方向とは反対側に身を低くしながら走っていったんだ。
俺は3人に、カミーユが引き付けるから、その間に逃げるって伝えたんだ。
ソニアやサニャは駄目駄目って言うんだけど、メルヴィナは「そう。」って呟いただけだった。

スルツキの民兵が俺達まで20、30メートルぐらいまで近づいた時だったと思う。向かい側の離れたところから、カミーユの声が聞こえたんだ。たしかスルツキを馬鹿にするような言葉を発していたと思う。
それに気づいたスルツキの兵士たちが大声を出しながらそっちに走っていってさ。
俺達はそれを見て少し経ってから急いでその場から逃げたんだ。

メルヴィナがサニャを、俺がソニアの手を引きながらガムシャラに走った。そしたら、後ろの方から乾いた音が何回か聞こえたんだ。
パパン、パパンだったかな。それと同時に、さっきまで叫んでいたカミーユの声が聞こえなくなった。
俺は、まさかと思って、立ち止まりそうになったんだ。引き返さなきゃって。

そしたら、メルヴィナが「止まっちゃ駄目!」って言ったんだ。引き返したら、カミーユの行動が無駄になるって

【こんなところで晒し者にされちゃってるなんてみんな(´・ω・)カワイソス 】

【かわいそうだよ。その通りだよ。
でも約束だからね。そして紛争前は民族が混在していたけれど、今は違う。ボスニア・ヘルツェゴビナ領内でもボシュニャチとフルヴァツキで住んでいる場所がわかれているんだ。そして連邦のもう片方、スルプスカ共和国にはスルツキが住んでいる。

スルプスカにいたボシュニャチはどうなったと思う?逃げたか、殺されたかだよ。
逆もまたしかり。そして今、スルプスカでは連邦から独立したいって考える人が再び増えてきた。だから、戦後にあっちの国の人がいったんだよ。

「現在でもバルカン半島は世界の火薬庫だ」って。
これを書くのは皆に悪いことかもしれない。でも絶対悪にされたスルプスカやセルビアの人々の禍根は、未だに消えてない。そして、それが恨みとなっていつ爆発するかもわからないんだよ。

俺が最初にどの勢力も賞賛・批難・中傷するつもりはない。って言ったのは、俺が1995年1月にオーストリアへ脱出するまでの間、ボシュイニャチの民兵とも、そしてスルツキの民兵とも行動を共にしたからなんだ。それは後で書くつもりだったけどさ。

でも、俺には止められないんだよ!そういうのをもう起こしたくないから、体験を広めてと言われたのにさ!何も出来ないんだよ。無力なんだよ。出版してどうだ。
誰もわざわざ買って読まない。アップロードしてどうだ。誰も読み出そうとしないよ。
だって面白いものは沢山転がっていて、そしてこの紛争は日本にとって遠い国で起きた自分達には関係がない話だから。

出版はね、ぶっちゃけていえば、何社か持ち込んだけど断られたんだよ。売れないってね。
今ではそれでもいいと思ってる。いつか誰かに読んでもらえればって。
でもそんな時間ももうないんだ。だからこんなとこで、大切な仲間の死をさ、面白おかしく書くしかないんだよ。それで、何かを感じてくれて、あわよくば、もっとバルカン半島の現状に目を向けてくれれば、それでいいんだよ。無力なんだよ。俺はさ。 】

【無力じゃないよ
昨日スレ立ててなきゃ、それこそ誰にも読まれなかったんだから

多分、祐希が想像する以上に多くの人がROMってる
レスに反応するにしても、出来たら本編投下後にしてもらいたい 】

【それパー速の煽り荒らしだから気にするな
つか、ここまでしっかり返したレスは初めてみた希ガス 】

【ごめん。ちょっと言い過ぎた。202が悪いわけじゃないのに。少し頭冷やしてきます。 】

【典型コピペの一つだから気にするな 】

【無駄でも無力でもないさ
お前の気持ちを全部理解することは到底できないけど、みんなに少しずつ思いを伝えることはできているはずだ 】

【ごめん。気を遣わなくていいです。どうせこれは俺の妄想なんだ。
妄想だから、罵倒して不謹慎な作り話しやがってと思ってくれ。
そしてもし、何があったのか気になったら、ネットでもいいし書物でもいいから、良かったら読んで欲しい。

憎しみというかシコリがある民族同士じゃ解決できないことが一杯あるんだ。
それが出来るのは誰?麻生元首相が、パレスチナとイスラエルの子どもを日本に招待して交流の場を設けたり、橋渡しをしようとしていたよね。
日本なら出来る事もあるかもしれない。

この俺の不謹慎な妄想を読んで、もし気になったら、小さな力でもいいから、橋渡しの土台になってほしいんだ。小さな柱でも、それが集まれば丈夫な橋、広くて長い橋になると思うんだ。他人の力まかせで本当に申し訳ないけど。

それじゃ続き書きます。明日も会社に行かなければいけないので、3時になったら寝るね。書き込めるのは、もしかしたら8時過ぎるかもしれない。そして、明後日もやらなきゃいけない事があるから、明後日は夜の12時には書くのやめて寝るよ。
予定狂って、もしかしたら書き終わらないかもしれないけど、その時は許して欲しい。 】

メルヴィナがサニャを、俺がソニアの手を引きながらガムシャラに走った。そしたら、後ろの方から乾いた音が何回か聞こえたんだ。
パパン、パパンだったかな。それと同時に、さっきまで叫んでいたカミーユの声が聞こえなくなった。
俺は、まさかと思って、立ち止まりそうになったんだ。引き返さなきゃって。

そしたら、メルヴィナが「止まっちゃ駄目!」って言ったんだ。引き返したら、カミーユの行動が無駄になるってね。

息が続く限り走ったと思う。それでも、移動した距離は1キロにも満たなかっただろうけれど。
肩で息をしながら、もう大丈夫だね。って言い合った。

そこからは歩いて山の下まで行ってさ、夜になるまでカミーユを待ったんだ。だけど、結局カミーユは来なかった。
薄々皆気づいていたよ。あの音がしたときに、カミーユは殺されちゃったんだって。でも、信じられなかった。
もしかしたらって思ってさ。口にする事が出来なかったんだ。

気づいたら、皆涙流しててさ、人が死ぬって事はまだそんなに深く理解できる年ではなかったけど、それでも涙が一杯出てきたんだ。カミーユがさ、サニャの事が好きだってのは気づいてた。
それに、サニャもカミーユが好きっていうのは知ってたんだよ。俺は。
だけど、怖くて止められなかった。カミーユが引き付けてくれれば、助かるかもしれないって思って。

泣きながら、サニャに「ごめん。ごめん。」って何度も謝った。俺が殺したようなもんじゃないか。
そしたら、サニャはさ、自分だって悲しいはずなのに、無理して笑顔作って、「祐希は悪くないよ。」って言うんだ。

太陽が沈んで、辺りが暗くなった頃、夜の山に子どもだけだと危ないからといって、山から出て道をあてもなく歩いた。何でこんな事になってしまったんだろうとか考えながらさ。
沢山の星が綺麗に輝いてるのにさ、下は地獄だって思ったよ。

1・2時間くらいかな。それくらい歩いてたと思う。いきなり草むらから音がして、何人かの大人が出てきたんだ。
またスルツキかと思って、びっくりして逃げようとしたんだ。だけど、ソニア達のヒジャブを見たからか、俺達がボシュニャチだとわかったみたいでさ、ボシュニャチの大人がこっちに来なさいって言ってくれたんだ。
あ、俺は日本人だけどね。

その人たちは、街で起きたことを教えてくれてさ、これからフォーチャへ向かって、それからゴラジュデに向かうから一緒に来なさいって言ってくれた。
ソニアやサニャは家に帰りたいって言ったんだ。だけど、街にはスルツキの民兵や軍が来てボシュニャチやフルヴァツキの人たちを連れて行ってしまったから、行っちゃ駄目だって。
首都のサラエヴォでも戦争が始まったって言っててさ。
俺達は黙ってついていくしかなかった。

ライトを着けないで、街の反対側の山から向かったんだ。車の中でさ、俺はまた泣きながら、カミーユに親切にしてもらったのに、俺は…って泣き言を言ってたんだ。
そしたら、サニャが俺の背中を擦りながらさ、「カミーユが小さい頃に死んじゃったお兄さんが祐希とそっくりだったんだよ。
初めて会った日にカミーユは嬉しそうに話してて、友達になりたいって。
大丈夫だよ。カミーユは怒ってないし、悲しんでもいないよ。安心して。」って。

そんな感じの事を言われたんだ。その時、俺が眺めていた時に何で話しかけてくれたのかとか、何で休み時間に教室に来てくれたり、一緒に沢山遊んでくれたり、優しくしてくれたりしたのかとか、不思議に思っていたことが繋がってさ…。
好きだった子が死んじゃって、俺よりも長く一緒に過ごしてた子が死んじゃったっていうのに、メソメソしている俺を慰めてくれてるサニャを見てさ。
あの時俺が勇気を出して行ってればって。俺が行けば良かったって後悔した。
それと同時に、カミーユとの約束、サニャを今度は俺が守らなきゃって。
何かあったらカミーユのようにしてでも守らなきゃって誓ったんだ。

まさか、これからさらに悲惨な未来が待っているとは、想像もしていなかったよ。

車で舗装された道の近くまで来たところで、大人たちがここから先は歩いて向かうって言ったんだ。
俺達は、何で歩いていくの?まだ遠いよって言ったんだけどさ、フォーチャへ向かう道はここしかなかったんだ。
サラエヴォでは、スルツキ(セルビア人)の警察や軍が都市を包囲して戦いが始まっててさ、この道にもスルプスカの軍がいるかもしれないから、歩いて山を越えることになったんだ。
とはいっても、実際に山中を登って下ってというわけではなくて、道から数百メートルはなれた木々の中を歩いていったんだけどね。まだ夜で周りは真っ暗でさ、すぐ目の前もよく見えなかったんだ。

月明かりだとか、星空だとかで案外見えるんじゃないかって気もしてたんだけど、木々に覆われた中では光が枝や葉に遮られてしまって、本当に暗かった。周りは風で揺らされた枝や葉がこすれる音とか、時折鳥か何かの声がしたりして、とても不気味だった。それでも、例え怖かったとしても、進まなきゃいけなかったんだ。サラエヴォに向かうのは危険なんだ。だから俺達に残された道は、ゴラジュデしかなかったんだよ。

幼い俺達にとって、夜寝ないで歩き続けるって言うのは、想像以上に辛いものだった。
家族がどうなったかわからないし、俺も父さんがサラエヴォでどうなったか、生きているのか、それとも俺がカリノヴィクを脱出した後に戻ってこれたのか、心配してないか、色々と不安だった。不安という一言では伝えきれないほど、頭の中では色んな事がごちゃごちゃと渦巻いていたように思う。体力的にも、限界は近づいてきていて、足は重いし、足元も良く見えなくておぼつかない。時折、ガサガサと音がするだけで皆が伏せてさ、常に周りを警戒しながら歩いてた。
真っ暗でよく見えないお化け屋敷の中を延々と歩くようなものかな。いや、起伏に富んでいて、足元が悪く、そして見つかったら殺されるかもしれないという不安が追加されているけれどさ。

もう歩きたくなかった。大人におんぶしてもらえたら、どんなに楽だろうって何度も思ったよ。
でも、俺達は言い出せなかったんだ。なぜなら、俺達よりも小さい子が歩いてるんだよ。
俺達よりも辛いはずなのに歩いてるんだ。だから耐えるしかなかったんだ。
とはいえ、徒歩で山中を歩くのは時間がかかる。

空が赤くなり、少しずつ夜が明けてきた頃だったと思う。フォチャ途中にあるミジュヴィナという街のすぐ近くまで来ていたんだ。内心、やっと休めると安心したよ。だけど、周りがどんどん明けてくるに連れて、その考えが甘かった事に気づかされたんだ。小さな街なのだけれど、そこからは黒い煙が立ち上っていた。
誰も口には出さなかったけれど、カリノヴィクと同じ状況になったというのは明白だった。

【煽りには反応しないで黙々と書き込んでくれ
反応するだけ時間とレスの無駄だから 】

しかし、このままフォーチャに向かうのは不可能だったんだ。俺達のグループは、大人数名に子ども数名、そしてまだ1歳ほどの赤ちゃんまでいたんだよ。
まだ4月とはいえ、喉はカラカラに渇いていたし、お腹もすいていた。
赤ちゃんに至っては、もう元気がなくてぐったりしていたんだ。

だから、一人の男性が街に行って、食料とかを調達してくることになった。
もしスルツキ(セルビア人)に見つかったら殺されてしまうのではないか?といった疑問もあったけれど、彼はスルツキ(セルビア人)とボシュニャチ(ボスニア人)のハーフだったから、大丈夫だよといって出かけていった。

待っている時間はとても長く感じた。もし帰ってこなかったらこのままフォーチャに向かうしかない。
そして、向かったとしても、このミジュヴィナと同じ状況になっているかもしれない。
未来が見えなかった。希望の光が見えなかったんだ。幼い俺ですらその状況なのだから、大人たちはもっと深刻に感じたいたかもしれない。まだ肌寒い季節なのに、そういった変な興奮状態からか、体は火照っていたように思う。恐らくは、疲労の為に体が熱くなっていたのかもしれないけれどね。

ごめん。もう無理だ。スレで人を煽るのは大丈夫だったのに、煽られると、思っていた以上に辛いんだな。あー、もう正直無理だ。
父さんに原稿託して終わらせる事にするよ。

これは妄想でした。不謹慎な作り話してしまって申し訳ありませんでした。
これでいいよね。

ただ、もし良かったらユーゴ紛争について調べてみてください。
そして関心を抱いてくれたのであれば、どうか彼らの力になってあげてください。
それが出来るのは、バルカン半島の民族感情だとか宗教だとか、利害だとかとあまり関係のない第三者、日本・日本人だと個人的に思うんだ。
皆に押し付けてしまって申し訳ないけれど、どうかよろしくお願いします。
子ども達が安心して暮らして、そして笑って大人になれるような世界を、彼らにもどうか見せてあげて欲しいのです。それでは、おやすみなさい。

【内容について煽られたわけじゃないのになんだこの祐希ww
そんなだからお友達(笑)もみんなレイプされて殴られて爆発して死んじまってテメーだけ生き残ってんだよ 】
【所詮構ってちゃんだったってこったな 】

【はは。だから言ったじゃないか。俺は生きる価値ないってな。
悔い改める機会も与える価値がないってさ。

だから死んで一人地獄に行くからいいんだよ
天国の皆に会えないけどそれは俺の所業から来るものだからいいんだよ。
もう俺に構わなくていい。忘れてくれ。構ってちゃんはおしまいさ。 】

【約束したんだろ?
誰とかわからないけど

おまえ今あとちょっとってとこまできてるんじゃないか?
おまえのためにも書いてほしい

俺?俺は自分が読みたいだけだけど・・・ 】

【まだ4分の1も書いてない。別に一言でうんざりしたわけじゃない。
積もり積もって、そしてどうだ。旧ユーゴについて関心を持ってくれたと思いきや、そんなだからお友達(笑)もみんなレイプされて殴られて爆発して死んじまってだぜ。
はは。俺にはそんなのに耐えながら書くのは無理だったって話さ。
だからこんな糞みたいな人生歩んできたんだろうな。
約束はもうここらへんでいいでしょ。妄想ってことでいいでしょ。
何人かの人は関心を持ってくれたからいいよ。ありがと。
逃げる俺を好きなだけ批難してくれ。卑怯者で地獄に行く人間に相応しい贈り物だ。 】

【ここは祐希のためにあるスレだから、祐希がこれで終わりというなら、
そうなんだろう。

ただ、一つだけその体験を抱えて生きていくのは凄く辛くて、
終わりのない苦悩だろうから、それを終わらせるのには
死ぬしかないと思ってるのかもしれないけど、自殺しても
お友達は向こうで再会を喜んでくれるかな?あなたが
与えられた天寿を全うして、愛する人に囲まれて見送られたとき、
みんなと笑って会えるんじゃない?なにも知らない、わからない自分が
こんなこというのはおこがましいけど、祐希には絶対に死んで欲しくない。お願いだよ。 】

【彼らと再会できるなんて思ってない。俺は地獄行くからさ。
ドラガンが俺達の場所ちくったと思って、ずっと憎んで生きてきたんだっつうの。
それだけが俺の生きる支えだったつうの。俺は何かを憎まなきゃ生きれない弱虫なんだよ。

それがどうだ?Facebookでミルコ達が生きてるかもって調べてたら、ドラガンの弟がいるじゃねぇか。
恨みを言おうとコンタクト送ったらどうだよ。笑えるよ。ドラガンは俺らの事庇おうとして、俺らが襲われた日に殺されてるんだからな!裏切り者って恨んでた俺は何なんだよ。俺らの為に犠牲になった奴をずっと15年以上もうらんでたんだぜ。生きる価値なんてねぇんだよ。苦悩を終わらせるんじゃなくて、未来だとか希望だとかがあるってわかっていながら生きるのが許せないだろ。
だから自分を自分で死刑にするんだって。これは俺への罰なわけ。
俺は屑なわけ。 】

【今度はドラガンに感謝しながら生きつづければいいじゃない
ドラガンが死をもってしてもなお、庇たかった命は確かにいま、そこにあるじゃないか 】

【お前はドラガンの事、「知らなかった」「誤解していた」だけだろ。
お前はその誤解が許せないのかもしれないが、
じゃあさ、お前等を救おうと思って命散らせたドラガンの気持ちはどうなる?
カミーユの気持ちは?

彼らはお前等に生きていて欲しいから自分の命懸けたんだろ?
そのお前が死んでどうするんだよ?

彼らの気持ちに応える為にも、お前はそういう気持ちを引きずってでも
生き抜かなきゃいけないんじゃないのか? 】

【誰かに助けられた命なら、他の人へつないで。
みんなあなたにまで戦争の犠牲になって欲しくなったんでしょ。
自分の知らなかったことを知って、自分を罰するといって死んだとしても、
それはやっぱり戦争の犠牲になることに見える。 】

【生きてる価値なんて高いも低いも無いだろ
そもそも、価値をはかろうとするほうがおかしいだろ

カミーユにしろドラガンにしろ、祐希含めてみんなに生きてて欲しいと思ったから、
今、こうして書いてる祐希がいるんじゃないか

このまま自罰的に生きることを望んでると思うか?

とりあえず明日以降も待ってるから
お休み 】

【さっきから聞いてりゃ、お前はずいぶん独りよがりなやつだな
お前が今その地獄乗り越えて生きてこられたのは誰のおかげなんだ?
一人で地獄を生き抜いたとでも言うのか?
もはや自分ひとりの命じゃなかろうに

罰だ何だといってるけど、結局は逃げてるだけじゃないか
ドラガンを裏切り者だと恨んできたのと同じ
今度はその対象を自分に変えただけ

お前に出来ることはこの先も生き続けて、戦争の悲惨さを語り続けることじゃないのか?
二度とユーゴスラビア紛争みたいな子供が犠牲になる戦争を起こさせないことじゃないのか?
それがみんなに生かしてもらったお前に出来る唯一のことだろうに 】

【あーもうあれだ。日本帰ってきてから、些細な事でカッとなったり、落ち込んだり、自分の感情を上手くコントロール出来ないんだわ。社会人なって生活では大分改善したけど、ボスニアでの事考えてる時とか、絡んでる時は、未だに頭おかしい人間になるんだわ。

最初に言っとくべきだったな。もう俺がへんちくりんな事言っても、スルーしていいよ。
煽り苦手みたいだから、心ここにあらずで書いていくよ。構ってちゃんでごめんねー

それと、心配させてしまった人、ごめんね。ありがとう。

読んでてイラつく人もいるだろうけど、無理して読む必要ない話だから、無理しないでね。それじゃ、自分のペースでゆっくり書くよ。
12時位には寝るので、それまでの時間で。
もう、長々と書く時間もないと思うので、明日、遅くても日曜日までには終わらせるよ。
それじゃー 】

彼の帰りを待ち続けてから、4時間か5時間ほど経過していたと思う。時計を持っていなかったから、何時頃かまでは正確にはわからないけれど、お昼近かった、もしくは過ぎていたかもしれない。
待っている途中に、何度か道路を車が通り過ぎて、その度に皆で伏せたりして身を隠し、物音を立てないようにしていた。普通であれば、通り過ぎる車は市民であったり、伐採した木材を運ぶトラックだったりしたのだけれど、この時通過していった車は、武装警察か民兵、あとはユーゴから抜けたスルプスカの軍隊ぐらいだったと思う。

もしかすると、フォーチャも既に同じ状況かもしれないという不安が、車を目にするたびに確信に変わってきていた。それでも、街から彼が戻ってこない限りは、どうする事も出来ない。
何時になったら戻ってくるんだろう。もしかして何かあったのかもしれない。そんな不安も過ぎっていた。
だけど、何かあれば街から音がしたりするんじゃないか、いや、距離があるから聞こえないといったやり取りを、大人たちはしていた気がする。俺やメルヴィナたちは、特にする事もなく、息を潜めながら、小さい子ども達をあやしたりして待っていた。

すると、朝に食料や水を取りに行ったボシュニャチの人が、スルツキの青年二人を連れて、俺達の隠れている方向に向かってきたんだ。皆混乱した。何人かの大人は、彼が俺達を売ったと言ったり、仲間になってくれるんじゃないかと言ったりして、話し合っていたんだ。しかし、このままここで待っているのは危険すぎる。もし本当に彼が俺達を裏切ったとしたら、俺達の運命は終わったも同然なんだ。だから、この場から離れて逃げようといったり、隠れてスルツキの青年たちの様子を見て、隙があれば殺そうといったりして、揉めたんだ。この時、話し合いを聞いていたけれど、子ども達は長時間の移動と、緊張の連続で疲れ果てていた。だから、淡々と、「どうなるんだろう」と考えたりしていて、子ども達は静かだった。

結局、すぐに結論が出る話ではないわけで、俺達は見つかる前に、とりあえず隠れる事にしたんだ。
様子を見てから決めても遅くは無いってね。相手は武器も持たない青年二人。両手に大きな荷物を持っている。
例え武器だとしても、取り出す前に殺せると考えたんだろうと思う。恐らく、100メートルぐらいまで近づいてきた頃かな。
ボシュニャチの彼と、スルツキの青年二人が、手を振り出したんだ。

もしかして、俺達を狙っていないんじゃないかって大人が言い出した。でも、また別の人が、いや、これは罠だ。
って言い出した。どっちかわからないんだ。他民族どころか、もう同じ民族の人間ですら、朝まで仲間として共に行動していた人間ですら信用できなくなっていた。おれ自身も、日本人ではあるけれど、この時は自分もボシュニャチの仲間・同胞といった様な意識が芽生えていたように思う。

それからしばらくの間、俺達は三人のことを注意深く観察したんだ。実際に観察していたのは大人で、俺達子どもはその様子をちらっと見たり、聞いたりするぐらいだったけれどね。
何か手を振る以外に何らかの行動を取ると大人たちは思っていたみたいだけど、彼らが何かをする素振りは見せなかったんだ。ただ、手を振って、そしてじっと待っているだけだったんだ。

そしたらさ、こんな時に限って、先ほどまで静かにしていた赤ちゃんが泣き出したんだ。
そりゃそうだよね。もう丸一日以上ろくに水分補給もしていないし、赤ちゃんが泣くのは仕方が無い。でも、タイミングが最悪だった。当然、彼らはすぐにこっちに気づいたよ。
大人たちは、彼らと目があったのか、それとも彼らがこっちに振り向いたのか、「あぁ・・・。」といったような諦めの言葉を発した気がする。

気づかれてしまい、もう駄目だといったような雰囲気が、俺達の中を包み込んだんだ。
だけど、彼らはこっちに気づくとさ、ニコニコしながら向かってきたみたいで、俺達の目の前まで来た時も、安心したような表情を浮かべて、3人で来た経緯を話してくれたんだ。
彼らが話していた内容は、長くて殆ど覚えてないから、簡単に要約するけれど、スルツキの青年二人の街ミジュヴィナでもカリノヴィクと同様の事が起きたんだ。
つまり、非スルツキの人々にスルツキの警察が襲い掛かってさ、連れて行ったり、抵抗する者は見せしめに殺害・レイプしたりしたらしいんだ。
それでさ、ハーフの彼が街に入った時、ちょうど亡くなった遺体とかを積み上げていたところだったらしい。

それでさ、この時一緒についてきたスルツキの青年二人が、ハーフの彼に気づいたらしいんだ。
そして、ここは危ないから、早く逃げるように言ってくれたんだって。だけど、食料と水がない状態ではゴラジュデどころか、近くのフォーチャにもたどり着けないって言ったんだって。
小さい子どもや、年配の老人もいるから、食料と水が必要って。そしたら、二人がわけてあげるって言ってくれてさ、そして自分たちもついていくと言ったんだって。ハーフの彼は断ったらしいんだけど、もし自分達がついていけば、万一民兵や警察に見つかった時でも、二人が出て行けば誤魔化せるかもしれないからってさ。

彼らが言うには、ミジュヴィナの街で、その虐殺というか、さっき言った様な事態が発生した時に、何人かのスルツキの人々は、ボシュニャチやフルヴァツキの人々に危害を加えるのに反対したらしいんだ。
昨日まで隣人として暮らしていた人を[ピーーー]のは止めようって。でも、そう言った人たちの殆どは、警察に酷い暴行を受けたり、殺されてしまったんだって。だから、自分たちはこんな所に居れない。
居たくないって事だったらしいんだ。

【支援

参考までに、google map
http://maps.google.co.jp/maps?f=q&source=s_q&hl=ja&geocode=&q=%E3%83%9F%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%8A&sll=43.487801,18.219452&sspn=0.713387,1.160431&brcurrent=3,0x0:0x0,0&ie=UTF8&hq=&hnear=%E3%83%9F%E3%82%B8%E3%83%A5%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%8A,+%E3%83%9C%E3%82%B9%E3%83%8B%E3%82%A2%E3%83%BB%E3%83%98%E3%83%AB%E3%83%84%E3%82%A7%E3%82%B4&ll=43.502496,18.741646&spn=0.178303,0.290108&z=12

【あ。ごめん。写真で見れるんだ…。少し見てていいかな。少し時間を下さい。 】

話を聞いた後、大人たちだけで話し合って、結果的には一緒に行動する事になったんだ。
それで、山の中で食事や休憩を済ませた俺達は、夕方になるのを待ってから、フォーチャに向けて歩き出したんだ。フォーチャへの道のりは、車だとそこまで遠いわけでもないのに、とても長く辛く感じた。これからどうなるかもわからない不安の中で歩くのは、とても根気のいる事だったんだ。夕方の時間帯は何とか大丈夫でも、夜になればどうしても眠くなるんだ。ただ、夜のうちに行動したほうが安全だからと言われて、歩くしかなかった。

人間ってさ、本当に眠い極限状態の時は、どんな状況でも寝れるみたいでさ、子どもだけでなく、大人でさえも、半分寝ながら歩いていたんだ。
子どもに至っては、ふらふらしながら歩いていてさ、危ないからということで、皆で手を繋いで、一列になったんだ。小さい子がうとうとしても、大きな子や俺達ぐらいの年の子が転ばないように注意しながら支えて歩いたんだ。
それで何とか、朝が明ける前にフォーチャ付近までたどり着いた。

フォーチャの街に入るには、本当は橋を渡った方が近いし楽だったんだ。
だけど、橋の付近にはスルプスカの警察や軍が検問を張っているかもしれない。
一緒について来てくれたスルツキの二人が、橋は避けたほうが良いと言うので、俺達はフォーチャ手前で川を直接泳いで渡り、超えることにしたんだ。

ただ、体力的にも限界が近づいていた俺達には、水の中を泳いで渡るのはとても過酷だった。渡る途中で、母親におんぶされていた幼児が流されてしまってさ。
助けなければいけないのに、誰も泳いで幼児の所まで行く体力が残っていなかったんだ。
母親は子どもの元へ泳いでいこうとしたんだけど、他の男の人に止められたみたいで、結局俺達は、その幼児が流されて沈んでいくのを見ているだけしか出来なかった。

川を渡って、山の方からフォーチャ市内へ向かった。街は、カリノヴィクやミジュヴィナと違って、家が燃えたり人の悲鳴が聞こえたりといった状態にはなっていなかったんだ。
俺達はほっとして、そしてスルツキの二人が念の為様子を見てくると言って、先に街の中へ入っていった。多分1時間くらいして戻ってきて、大丈夫だから行こうという事になった。

この日は、カリノヴィクから逃げてきてから大体二日ほど経った日で、92年の4月7日だった。
もし、フォーチャでもカリノヴィクと同じ事が起きていたらどうしようと思っていたけれど、実際にはまだ何も起きていなくてさ。とりあえず、皆安堵して、親戚や知人がいる人たちはその家に向かい、行き場のない人達はモスクへ向かったんだ。以前ソニアやソニアパパと来た時は、街もかなり活気があって、人々が溢れていたのだけれど、この時は人が少なくて、多分外に出ていなかったんだと思う。それがとても印象的だった。

俺達が向かったモスクはさ、前にソニア達と一緒に来たモスクだったんだ。あの時は、まさかこんな形で再び来ることになるとは思わなかったけれど、安心した気がする。これからどうしたらいいのかとか、父さんは無事なのかとか、色々と聞きたいことや不安は山積していたのだけれど、緊張や疲労から体力的に限界がきていた俺やソニア達は、着いてからすぐに寝てしまったんだ。

たったの数日、二日ほどの出来事だったのに、ゆっくりと安心して建物の中で寝られるのが、とても久しぶりに感じた。

目が覚めたときには、もう辺りは暗くなっていて、夜になっていたんだ。かなり長時間、寝入ってしまっていたんだ。起きたら何だかトイレに行きたくなってさ、俺は大人の人を呼んで一緒に行ってもらおうと思ったんだ。早朝まで暗い山や森の中を歩いて来たというのに、トイレに一人で行くのが怖かったんだ。変だよね。
でも、周りを見渡してもモスクの中には大人が誰も居なかった。
あれ?おかしいな。もしかして夢なのかな?とか、まだ寝起きで頭がぼーっとしていた俺は思っていたんだ。だけど、少ししてさ、外が騒がしいのに気づいた。

どうしたんだろうと不思議に思って、モスクの外に出て周りを見渡したんだ。
そしたら、街中から人の悲鳴とかが聞こえてきてさ、時々、つい先日耳にしたのと同じような乾いた銃声の音が聞こえたんだ。嘘だと思った。やっと安心できると思ったのに、たった一日、いや一日も経たずにこんな事ってあんまりだと思って、自分の目を疑った。

でも、何か目を擦っても、耳を叩いても、目に見える光景や音は変わらなかったんだ。
そしてよく見るとさ、街の所々から火とか煙が上がっていて、信じたくなかったけれど、これが夢の世界の出来事なんかじゃなく、現実に起きている事だと受け入れるしかなかった。
そう考えたらさ、さっきまで何ともなかったのに、急に足の力が入らなくなってしまって、地べたにペタンと座って立てなくなったんだ。心のどこかで、もう逃げ切れないんだな、ここで死ぬしかないんだなと感じた。希望を持たなければここまでショックを受けなかったと思う。だけど、フォーチャに着いて、もう大丈夫かもしれないと希望を持ってしまったんだ。
それをもがれるのは、まだこの時は耐えられるものではなかった。

それから少しの間、その状態のまま座っていたと思う。気づいたら、周りに一緒にここまで行動してきた大人達が居て、その人たちも同じように唖然とした表情で街を見つめていた。
恐らく、最初から近くにいたのかもしれないけれど、街の状態でショックを受けていた俺は、気づかなかったのかもしれない。そのまま俺はまたじっと、燃える街を見ていたんだ。
そしたら、ソニアが起きてきて、俺の隣に来たんだ。

「祐希ー、街綺麗だねー。わー赤い星がいっぱいだよー。」

といった感じの事を笑いながら言うんだ。一瞬、俺はソニアが何を言っているのか理解できなくてさ、表情を見たら、何か笑っているけど、ぼーっとしていてさ、目の焦点が合わないような変な表情をしていた気がする。おかしいって思って、何言ってるのか何度も聞いたんだ。だけど、ソニアは笑って綺麗だね、しか言わないんだ。物じゃないけどさ、ソニアが壊れちゃったと思った。

俺はどうしたら良いのかわからなくて、ソニアの事も相まって少し混乱しちゃってさ。
もう考えるのは無駄かもだとか、諦めようとか、マイナスの事を考えたりしたんだ。
だけど、このまま諦めたらソニアやメルヴィナ、サニャはどうなるって思って、このままだとカミーユの行動が無駄になるって考えたんだ。サニャ達を守るって誓ったのに、このままだとその誓いも破ることになってしまうって。
だから、3人を連れて街から逃げようとしてさ。
行くあてもないし、ましてやこの国の人間ではない自分には頼れる人もいない。
それでも、ここに留まっているよりは、マシな選択に思えたんだ。

逃げるなら、今のうちしかないと考えた俺は、ソニアの腕を引っ張って、モスクの中に戻った。そしてまだ寝ていたメルヴィナやサニャを起こして、「ここは危ないから街の外に逃げよう。」と言ったんだ。メルヴィナもサニャも、起こしたばかりだから少し寝ぼけて反応が薄かったけれど、外の音が聞こえたみたいでさ、何が起きているの気づいたらしく、「うん。」と答えてくれた。

だけど、遅かったんだよ。余っていた食べ物とかを集めていたら、もうモスクの直ぐ近くにスルプスカの警察が来てしまったらしく、大人達が騒ぎ出したんだ。大人達がスルツキだ警察だって叫んで、早く逃げなきゃって思ったんだ。ソニアは警察だから大丈夫だよって笑っていたけれど、その警察がボシュニャチやフルヴァツキの市民を連行したり暴行したり、殺したり、レイプしたりしてるんだよ。
もうこの街に正義の味方、少なくともボシュニャチを助けてくれる味方はいなかったんだ。

そんな感じでモタモタしている内に、モスクの周りのは更に騒がしくなっていた。
外に居た大人たちは、慌てながらモスクの中へ逃げ込んできたり、他の場所に逃げようとしたみたいだった。だけど、他の場所へ逃げようとした人に向けて、警察は銃を発砲したらしく、乾いた銃声が周りから聞こえて、外の悲鳴とかは少しずつ聞こえなくなった。
その状況を見ている内に、もうモスクは警察に囲まれていたんだ。

モスクから逃げようにも、幼い俺達が走って警察から逃げ切れるはずもない。
最悪、カミーユのように俺がお取りになって、サニャやメルヴィナ、ソニアの3人だけでも逃がそうと思った。もう9人の中で、男は俺しか居ない。俺しか3人を守れる人間はいないって思ったんだ。

でも、現実はそんな英雄的な行動をおいそれと取れるものじゃなかった。
少し間をあけて、警察たちが銃を手にしながらモスクの中に入ってきたんだ。
多くの人は、隅っこに下がったり、布を被ったり、伏せたりした。
だけど、そんな事をしても意味なんてないんだよね。彼らは俺達の様子を見に来たわけじゃないのだからさ。警察官達は、大人の男だけじゃなく、隅っこで震えている子どもや女性、お年寄りの顔を一人ひとり確認していった。
俺達の所にも近づいてきて、俺はさっきまであんなにお取りになろうと考えていたのに、怖くて足も動かないし、声も出ないんだ。本当に動かないんだ。
動かそうと思っても、心が折れてしまっていたんだ。

警察の人の顔は、暗くてよく見えなかったけれど、その時はとても怖い顔をしていたように見えた。一通り、性別や年齢とかを確認し終えると、警察官は大人の男性や女性を無理やり引っ張って連れて行ってしまったんだ。当然、男の人は暴れたけれど、外に引きずり出された後に銃声が聞こえて、その人の声はもう聞こえなくなっていた。
変な話だけど、この時ぐらいからだと思う。人が殺されても、あまり感情とかが湧き上がらなくなってきていたんだ。ああ、またかといった感覚に似ているけれどさ。

警察が去った後は、皆ぼーっとしながら、夜が明けるまで座っていたと思う。赤ちゃんとかは泣いたりしていたけど、それをあやす母親はとても憔悴しきった顔をしていた。もしかしたら夫があの時連れて行かれたのかもしれない。
だけど、そんな事を聞けるような状況でもないし、正直に言えば、もうソニア達3人以外の事を考える余裕なんて俺にはなかった。

それから数日経ったけれど、時々街中で銃声や悲鳴が聞こえるぐらいで、初日ほど騒々しい状況になることはなかった。スルプスカやスルツキに忠誠を誓う印として、生き残ったボシュニャチの人々は家の前や屋根に白い布とかを掲げて、自分もスルツキの一員だといったような合図をしていた。後で調べて、これが警察とかから指示されたものだと知ったよ。
この白い布や旗っていうのはさ、今考えてみれば、自分がボシュニャチですと公言しているようなものなんだよね。この家や建物にはボシュニャチがいるぞ!って。
かといって、白い布を掲げなければ、殺されたり拷問されたりするんだ。
掲げても暴行やいやがらせを受けて、時には見せしめとして殺害されレイプされ、掲げなくても殺害・レイプ・暴行をされる。自分が標的にならないように祈ることしか出来なかった。

もう希望なんて正直消え失せていた。この街から逃げたくても逃げ出せない。
街の所々にはボシュニャチの人々の収容所とかが作られたりしてさ、男の人は暴行、処刑されて、女性は数人がかりでレイプされていたらしい。
この時は、そんな事になっているとは知らなかったけどさ。

何もする気力が起きないし、する事が無い。何日もぼーっとしてたんだ。
そしたら、モスクに元々いた年配の人がさ、「君はムスリムなのか?」って聞いてきたんだ。だから、違うって答えた。そしたら、「何で我々と一緒に行動するんだ」って言うんだ。
何でってそんなの俺が知りたかったよ。だけど、友達と離れたくないから、友達を守らなきゃいけないからって答えたんだ。

そしたらさ、君は異教徒で異民族かもしれない。だからこそ、生きて目にしたものを伝えなさいって言って、藁半紙みたいなノートを数冊くれて、鉛筆も何本かくれたんだ。

今こうして書いている内容の元は、この時にもらったノートに書いてある日記というか、起きたことを書いた文なんだ。元々さ、カリノヴィクに居た頃から絵日記みたいのはつけていたんだけど、あの時は急だったから持って居なかったし、取りに行ける状況じゃなかった。だから、このカリノヴィクから逃げる時期やフォーチャでの出来事、これから先の出来事は多少細かく書けるんだけど、その前の出来事は、時々思い出みたいのが書いてあるぐらいだから、今じゃどんどんその時の記憶が思い出せなくなってきているんだ。
それがとても怖い。

ちょっと休憩。書き始めるの遅かったので、一応1時まで書いてみます。
細かく書くと、全然進まないから、これから先書くのはもっと短く要約するね。
ごめん。わからない所があれば聞いてください。

あー、この人のお陰で記録を書くことは出来たし、この人との約束も、俺が前に書いた約束の一つではあるんだけれど、こうして体験を書き込まなきゃいけないっていうのは、この人との約束ではないんだ。

後でぱぱっと書くけど、この後、ボシュニャチの民兵と一緒に行動する事になるんだけれど、その人との約束なんだ。

そして、その後に死なずに今まで無様に生きてきたのは、ボシュニャチの民兵と離れた後に行動を共にしたスルツキの民兵のお陰なんだ。 とりあえず書いていくね。
前のよりも出来るだけ短く書きます。

【殺しや暴行レイプをしていたのは警察だけ?そのときスルツキの市民はどうしてるんだ?】

【それには答えにくい。場所によって違うんだ。
警察だけのとこもあれば、民兵や市民も混じって暴行や霊王、殺人をしたりしていた場所もある。
それに反対する人だって当然いたけど、反対したらその人も民族浄化の対象になって、反対できなかったりとかもあったと思う。逆もまた然り。 】

日にちは経って、4月22日になった。
この日も、ここ数日のように過ぎていくと思っていたんだ。
だけど、違った。スルプスカ軍か、民兵か、警察かはわからないけれど、フォーチャにある歴史あるモスクが次々に破壊され、爆破されたんだ。

もう俺達が気づいた時には、街中から轟音が聞こえて来ていた。
また始まったと思ったけれど、この日はいつもと違ったんだ。
この日の標的は、俺達とは関係ないボシュニャチの人ではなく、俺達自身だったんだ。急いで荷物をまとめて、モスクから逃げようとした。
大半の人は逃げていたけれど、サニャが忘れ物をしたといって、モスクに走って戻ったんだ。俺は駄目だよ。危ないよって何度も叫びながら止めようとしたんだ。

でも、サニャはカミーユの荷物があるから取りに行くって言って、止まってくれないんだよ。

必死に追いつこうとしたけど、この時のサニャの足は速くて追いつけなくてさ、モスクのすぐ隣に生えている木の所でやっとサニャの手を掴んだんだ。
そして、危ないから俺がとりに行くって言った瞬間だったと思う。
耳がつぶれるかと思うくらいの轟音と一緒に、目の前が真っ暗になって、気づいたら10数メートル吹き飛ばされてたんだ。

一瞬、何が起きたのかわからなくてさ、耳もキーンとして聞こえないし、目もよく見えなかった。
体中にも激痛が走ってた。だけど、感覚はあるし、どうやら自分が無事だって事は何とかわかったんだ。

それではっとしてさ。そういえばサニャはどこだって。
でも、自分の手はサニャの手を握ってるんだよ。だから、無事で良かったって思ったんだ。

だけど、違ったんだよ。耳とか目の視力が回復してきて、よく見たら、サニャの手しかないんだよ。
俺は丁度木の陰に隠れて、打撲で済んだけれど、サニャは木の陰に隠れてなかったんだ。

俺よくわからなくなっちゃってさ。サニャどこに隠れたんだろってサニャの事必死に探したんだよ。
でも、周りにサニャ居なくてさ。あ、モスクの中に隠れたかもって思ってさ、崩れ落ちたモスクに行こうとしたんだ。モスクの中に運よく隠れたんだって思ってさ。

そしたら、メルヴィナが俺のところに駆けてきてさ。
危ないから早く離れるの!って言うんだ。
でも、まだサニャがモスクにいるから、いるから!って俺何度も言ったんだ。
サニャに手を返さないと、くっつかなくなっちゃうから早くしないとって。

よくわからないけど、俺泣きながらサニャ早く出てこないと、手返さないよって叫んだんだ。
そしたら、メルヴィナにビンタされてさ。かなり痛かった。
「サニャはもう駄目なの!祐希まで死んじゃったら私たちどうしたらいいの!」みたいな事を泣きながら言うんだ。

もう駄目だってそんなのわかってるんだよね。わかってるんだ。
木の陰がとか、そういうのはその時は気づいてなくてもさ、手首から少し先がもぎ取られたみたいになってるのを見れば、そんなのわかるんだよ。

でも、そういった現実は俺には認められないんだよ。だって、俺はカリノヴィクでカミーユにサニャを守ってねって言われて、約束してるんだよ。その後、カミーユの代わりに俺がサニャを守るって誓ってるんだよ。

情けないけどさ。俺それから数日の記憶なくてさ、気づいたらフォーチャからソニアやメルヴィナ、そして何人かの大人と、赤ちゃんとか小さい子ども数名と一緒に山の中にいたんだ。

俺さ、サニャよりも足はずっと速いんだよ。
怪我でもしてない限り、サニャに追いつかないはずないんだ。

あの時、俺が追いつけなかったのは、多分、俺がビビッてたからなんだ。
俺は守るとか調子良い事言ってたにも関わらず、またビビッて、何も出来ずに今度はサニャを見殺しにしたんだって気づいてさ、悔しくて、悲しくて、そして憎くて涙が止まらなかったんだ。

【祐希すごいよ・・・
俺とたいして年が変わらないのにこんな地獄をを生き延びいて
しかもそれを記録して誰かに伝えることを考えてるなんて・・・ 】

【そんなたいそうなもんじゃないんだよ。こんな話、思い出したくもないし、早く忘れたかったよ。
でも毎日のように夢に出てくるし、ボシュニャチやスルツキの民兵の人と行動を共にしなかったら、例え生き延びてもとっくに自殺してる。もしくは犯罪者になっていたと思う。
彼らのせいで人生が狂ったけど、彼らのお陰で生きているってのもあるし、約束して色々と託されたから、それをやらないまま勝手におしまいなんて出来ないんだ。
ただそれだけなんだよ。

頭おかしくなるし、マイナスな事ばかり考えるようになるし、自分が嫌で嫌でたまらなくなるんだ。
夜寝ようとして、暗くすると、銃声が聞こえるような気がして目が覚めたりするんだ。
未だに、ちょっとした物音がするだけで、反射的に目が覚めるんだ。

あーもう何が言いたいのか自分でもよくわからない。ごめん。それじゃ、おやすみ。 】

【はぁ。ごめん。今夜はここまでにして寝ます。
また明日の夜、書いて、出来れば明日には書ききれるようにしたいと思う。
もしくは明後日の日曜までには。
ごめん。それじゃ、お休み。 】

【おやすみ。
俺は21の大学生だけど国境なき医師団の看護師を進路として考えてる
でも(ほぼ)日本を捨てて海外に単身行くのは勇気がいるし、この話読んで決心できたらなんていうか
俺の人生のターニングポイントになる気がする。そんな感じ。興味深く読んでるよ】

【看護系の大学で学んでいるのかな。それとも大学を出た後に看護学校へ行くつもりなのかな。
俺なんかに何も言う資格もないんだけれど、貧しい地域やインフラが整っていない地域で活動するのは、とても大変な事だと思うんだ。もしかしたら、失うものの方が多いかもしれない。
得られるものは、人々の貴方への感謝の気持ちと生きる素晴らしさだけかもしれない。
それがもし、貴方にとってお金や物にもかえがたい素晴らしい事であるなら、是非、彼らの力になっていただければって思う。あ、そっちに行く前に日本で経験を積んだほうが、きっと後で役に立ってくると思うけれどね。】

【今日も遅くなってごめん。それじゃ、またゆっくり書いてくね。

えっと、皆には心配をかけてしまって申し訳ないけど、俺の事はどうでもいいんですよ。
一連のユーゴ紛争について少しでも関心を持っていただければ、それでいいんだ。
わがままなことを言ってごめんね。】

それから1ヶ月か2ヶ月ちょっとは、山の中で生活していたんだ。
フォーチャにはもう戻れないから、結構離れた山中で静かにしていたんだ。
幸運な事にさ、一緒に脱出した人の中に、ミジュヴィナからついてきてくれた青年の一人が居て、薬とかを時々歩いて5時間くらいかけた所にあるらしい集落に取りに行ってくれていたんだ。

ただ、食料は毎回のように貰いに行くわけにはいかなかった。
なぜなら、それで俺達の存在がスルツキの人々に知られてしまう可能性があったんだ。
だから、この山中での生活は、食べ物が少なくて辛かった。
食べられそうなものは何でも食べたんだ。葉っぱも食べたし、変な虫も食べた。
動物も居たけれど、捕まえられたのは数回だった気がする。食べ物が少なくて、大人の人も生きている動物を捕まえるほど体力がなかったんだ。

それでさ、動物を捕まえたとしても、火は起こせなかったんだ。
夜といっても、月だとか星の光で煙が見えちゃうらしいんだ。
だから、動物の肉は生のまま、皆でわけあって食べていた。

水も、何時間も歩いた場所にある池から取ってきて、濁ったまま飲んでいたんだ。それでも水が足りなくてさ、ずっと空腹と喉の渇きに飢えていた。それに耐えられなくなった俺達より少し上の子が、木の窪みみたいな所に溜まった水を飲んでしまって、お腹を壊して、何日か経った後に亡くなった。

男の人が、何日かごとに結構離れた農地へ作物を盗りにいって、野菜とかを手に入れてくるんだ。だけど、その食べ物は幼児や赤ちゃんにおっぱいをあげなきゃいけないお母さんに食べさせて、俺達を含めた他の人は、食べられそうなものを食べて我慢してた。

葉っぱはさ、たまに毒があるものがあって、最初のうちは見分けられなくて舌がしびれたり、唇が腫れたりした。だから、食べる時はまず唇に10分くらいつけて、それで大丈夫だったら口の中に入れて、そこからまた10分ぐらい口の中に入れたまま、咬まずにしておくんだ。それでさ、舌に痺れだとか痛みがなければ、よく噛んで飲み込んでた。美味しくはなかったけど、食べられずにはいられなかった。

その点、虫は栄養もあるっぽくてさ、最初は気持ち悪かったけど、途中から抵抗なく食べられるようになってた。特にイモムシみたいなのとか、何かの幼虫はおいしかった。
結構大きめのクモも、肉に歯ごたえがあって、味は鶏みたいな感じだった。
とはいっても、この時はずっと空腹で味覚も狂っていたと思うから、実際はそんなに美味しいものではなかったと思うんだけどね。

色々と慣れてくるものだけど、一つだけ慣れないものがあったんだ。
それは夜の山なんだ。時折、別の山とかに移動して転々としていたけれど、どの山も怖かった。別に幽霊だとか、動物が怖いわけじゃないんだ。

もしかしたら、スルツキの警察や民兵、軍がくるかもしれない。
もしかしたら、この場所が知られているかもしれない。
そんな恐怖が子どもや大人全員にあって、夜は必ず大人二人と子ども一人が起きて、見張りをしていた。
それでも、物音がしたり、風で木が揺れる度に、皆が目を覚まして、息を潜めてさ、場所を移動してもそれはその恐怖は消えなかった。

ごめん。書くのを躊躇っていたけれど、やっぱり書く。
この山中の生活でさ、子ども一人と年配の人が一人亡くなったんだけど、俺達はその人の遺体を食べたんだ。とても気持ちが悪くて、最初は吐いたんだ。吐いたけれど、食べないと死ぬぞって言われて、皆泣きながら食べた。俺はさ、この時、別の肉もソニアやメルヴィナと食べたんだ。そんな多い量じゃないんだけどさ。

フォーチャから脱出した時、俺はずっとさ、サニャの手を持ってたらしくて、目を覚ました時にサニャの手がバックに入っていたんだよ。
捨てるに捨てられなくてさ、腐ってきていたけど、ずっと手元に置いていたんだ。
それでさ、今書いた人の肉を食べた後、お腹がすいたって鳴いているソニアを見てさ、じゃあ、サニャの手を食べようって言ったんだ。

もう、サニャの手は腐ってて、臭いもきつかった。それでも、栄養があるものを食べなきゃって自分達に言い聞かせて、メルヴィナも呼んで三人でこっそり食べたんだ。口の中に入れた瞬間、へんな臭いと味が広がって、思わず吐きそうになったけど、サニャの分まで生きようって三人で言い合って、食べた。

この時が、空腹とかの絶頂だったように思う。友達を食べるって、やっぱ違うんだよ。
一緒に行動していた人も大切な仲間だけど、やっぱりその人のとは違うんだ。
味とか臭いだけじゃなくて、言葉に言い表せない気持ち悪さとか悲しさとか色んなのがごちゃまぜになった状態で、涙が出そうになるんだ。
声を出して泣きたい位の涙が出そうになるんだ。でも、出ないんだ。
水が殆どなかったからかもしれないけれど、サニャの手を食べた時は、ソニアもメルヴィナも、もう泣かなかった。

【ご飯食べてた人はごめん。それとちょっと少し落ち着きたいので、休憩させて下さい、今日は、可能な限り朝まで書くからさ。ごめん。】

【現実なんだよな
釣りじゃないんだよな】

【信じるも信じないも、全て皆の判断にお任せするよ。ここで俺が本当だ、信じてといっても、俺が嘘をついて本当だと言っていたとしたら、意味がないでしょ。
ただ、こういった事が実際に起きた紛争だったと、起きたんじゃないかな、そう思って、この紛争に、この地域にもっと関心を持ってもらえればそれでいいんだ。
辛ければ、信じなくてもいいんだ。ただ、どうかこの地で起きた一連の出来事を、知って欲しい。そして、もっと関心を持って欲しい。上手く言葉に出来なくてごめんよ。】

この時ぐらいからだったと思う。俺も含めて、ソニアやメルヴィナもあんまり感情を表に現さないようになっていった。

そんな生活をして1・2ヶ月経った頃、皆の体力もかなり落ちていて、このまま生活していても先がないという話になったんだ。
それで、本来の目的地だったゴラジュデに向かうことになった。
毎日日記はつけていたつもりなんだけど、フォーチャから脱出して数日は記憶が殆どなかったせいで、正確な日にちはわからない。
だけど、恐らく6月に入って数日程度経った頃だったと思う。

ゴラジュデへの道のりは、大体3日間ほどだったんだ。
それでも、体力が落ちていた俺達には、過酷で辛かった。
ああ。

【グーグルマップで祐希がいたであろうフォーチャ東の山を見てる
緑はあるけど結構ハゲてるところも多いな】

【ごめん。山の中にいたから、どこらへんかわからないんだ。
ただ、剥げているというか農地の場所とかはあったと思う。結構、人が近くに居たりする場所で隠れて生活するには向いていない地域だったと今考えれば思う。】

ゴラジュデに向かいだして二日目の昼頃。
山の中を進んでいくとは行っても、道路とか人の生活圏を完全に避けて通過するのは厳しかったんだ。
本来であれば、夜にそういった場所を通過した方が安全なのだけれど、俺達には体力的にもそんな余裕がなかった。

この時は、丁度山道を横切る時だった。道の200Mぐらい手前で、道に銃を持った人間がいるのが見えたんだ。
警察か民兵か、それとも軍の兵士なのかは見分けがつかなかった。だけど、そこを通らないと山が越えられなかったんだ。

俺達、というか大人達は選択に迫られたんだ。このまま気づかれないように進むしかない。
だけど、それには大きな障害があったんだ。それは、赤ちゃんだったんだ。
赤ちゃんはさ、泣くのが仕事っていう位、よく泣く。このときは、元気もあまりなくて、そんな泣くほどでもなかったんだ。それでも、もし万が一泣いてしまったら、俺達はつかまってしまう。
全員の安全の為には、赤ちゃんを連れて行くことはさ、出来なかったんだ。

でもさ、さっきも書いたように、俺ぐらいの子どもも、大人達も、赤ちゃんや幼児の為にどんなにお腹が空いていても、我慢して、耐えて、その子たちに優先的に食べ物をまわしていたんだよ。そんな簡単に、皆の為にといって、赤ちゃんを連れて行かないなんて、決断は出来なかったんだ。

少しの間、沈黙が流れてさ、言いたいことはわかってる。だけど、誰も言い出せない状況が続いた。
ここまで一緒に行き抜いてきたんだ。こんな小さい赤ちゃんでも、皆にとっては大切な仲間で、気持ちとしては、家族同然のようなものだったんだと思う。

赤ちゃんの母親はさ、皆が言いたいことは十分わかっていたんだと思う。そして、皆がそれを言い出せないという事も理解していたんだと思う。誰も言い出さない中さ、笑いながら、皆が言いたいことはわかるって。自分もこの子も、自分たちの為に皆が危険な目に合うのは望まないって言ってさ。自分が母親だから、きちんと責任を持つって言ったんだ。
だから、皆は先に進んでください。この子とお別れをしたら、私も後から追からって。

何とも言えない空気の中で、そう言った母親は、さっき来た道を戻って行ったんだ。
大人たちは、母親の姿が見えなくなった後に、「すまない。」って一言二言いって、武装したスルツキの近くを通過していくことにしたんだ。

スルツキ達が居る場所を過ぎて、少し数百メートル歩いたところで、俺達は数時間待ってたんだ。
母親が後から来るっていってたからさ。でも、結局母親は来なかった。

今思えばだけど、後から追うっていうのは、赤ちゃんの後を追うって意味だったんだろうな…。

次の日になると、先頭を進む人と、後方の人の距離がかなり広がっていた。
もう休んでいる時間も体力もない。もし休んだら、そのまま動けなくなってしまうような状態だったんだ。だから、この時になると、暗黙の了解じゃないけど、体力のない人はどんどん遅れていくようになった。幼児とかは、まだ小さいから、体力のある大人が背負えるんだ。だけど、俺達ぐらいになると、体重が多少あるから、背負えないんだよ。

【もしかしたら殺せず二人で逃げたのかもしれないな】

【逃げ場なんてないんだ。前にも言ったけど、俺達がいた場所はさ、スルプスカ共和国って名乗る、スルツキの領内だったんだ。どこに逃げても、味方なんていないんだよ。
だからこそ、俺達はゴラジュデへ向かったんだ。それ以外の選択肢なんてなかったんだ。

例え逃げたとしても、待っているのは死か、スルツキに捕まるかのどれかだったんだ。
そして、この時、スルツキに捕まるのは死も同然だったんだ。】

そして、丁度最後尾に居たのは、俺とソニア、メルヴィナだったんだ。
ソニアは体力的にも、精神的にも参っててさ、俺とメルヴィナが引っ張りながら歩いていたんだけど、子どもだからただでさえ歩くのが遅いんだ。引っ張りながらだと、さらに遅くなって、全然追いつけないんだ。

気づいたら、俺達は皆とはぐれてたんだ。遠くの方からは、爆発音みたいな音とかが聞こえてきてて、どこかでまたあのような惨状が繰り広げられているかもといった考えが過ぎった。
もしかしたら、大人が心配して引き返してきてくれるかもって思った。
だから、俺はメルヴィナにここで大人達を待とうって言ったんだ。
だけど、メルヴィナは駄目って言うんだ。
「戻ってこないよ。自分達で進まなきゃ。」って言うんだ。

俺達は三人だけで、道もわからないのに、進んだんだ。メルヴィナがさ、もしかしたら、味方が来てスルツキの兵士をやっつけてるかもって言うんだ。
確かに、そうかもって。何かにすがりつかないと前に進めなかった。
だから、俺達は、音がする方に味方がいるって希望を持って、そっちに向かったんだ。

でも、それが間違いだった。

山と山の間に、少し開けたところがあって、俺達はそこに出たんだ。
あんなに体力が落ちてなければ、疲れていなければ、もっと冷静に考えられたのかもしれない。
だけど、この時の俺達は、子どもでそこまで思考能力もなかったし、そして疲れ果てていて、頭が回らなかったんだ。

開けた場所の半分くらいまで歩いた時だった。
横の道から、振動と共に何かが近づいてくる音がしたんだ。
もうさ、前の方からは爆発音とかがしてて、そんなの聞こえないはずなのに、聞き間違いだって思いたかったんだ。
だけど、爆発音の合間に、何かが向かってくる音がするんだ。

味方かもしれない。でももしスルツキだったらどうしよう。色々不安と期待があった。
俺は怖くて、迷って、そしてその場で止まってたんだ。
そしたら、メルヴィナがとりあえず逃げなきゃって言ってさ、俺はソニアの手をつかみながら全力で前の森というか、山に向かって走ったんだ。

それで、何とか木のところまで来て、良かった。何とか隠れられたって。そう思ったんだ。
それで後ろを振り返ったら、メルヴィナがいないんだよ。
何でって思ったら、メルヴィナがさ、メルヴィナがこんな時にだよ。
こんな時に限ってさ、転んじゃってるんだよ。

もう近づいてくる音もかなり大きくなっていて、振動もしてきていたんだ。
メルヴィナ早く立ってこっちに来いって叫んだんだ。
だけど、メルヴィナは立たないんだ。いや、立てないんだよ。
3日間も、殆ど寝ないで飲まず食わずで歩いてきたんだ。
体力的にも精神的にも、限界なんてとっくに通り越してたんだよ。

俺は助けに行かなきゃって、もう見つかってもいい。ここで俺がおとりになれば、もしかしたら二人は助かるかもしれないって。それで飛び出してメルヴィナの所に走って駆け寄ったんだ。
でも、メルヴィナを起こそうとしても、メルヴィナは足に力が入らない、立てないって言うんだ。だけど、こんな所で見捨てるなんてできるわけないじゃないか。
ここまで一緒に行きぬいてきたのに、もう三人だけになってしまったのに、見捨てるなんて出来るわけじゃないないか。

だから、メルヴィナを背負ったんだ。だけどさ、情けないよ。全然前に進めないんだ。
この時、俺は8歳で、小学3年ぐらいだったんだ。男女の差といっても、体格的にも、肉体的にもまだそこまで差がなかったんだ。普段だったら、それでも何とか歩けたはずなんだ。でも、この時の俺にはそんな力なんて残っていなかったんだよ。
頼むから前に進んでくれって頭の中で思っても、全然前に進めないし、足のふんばりも効かないんだ。もう、向かってくる音はかなり鮮明になっていて、金属音も混じっていたんだ。俺とメルヴィナの姿が相手に見られるのも、時間の問題だった。

俺はメルヴィナに大丈夫だから、俺が何とかするからって言ったんだ。
だけど、メルヴィナがさ。泣きながら、「もういいから、ソニアの所に行って隠れて」って言うんだ。
そんな事出来るわけないじゃないかって怒ったんだ。
だけど、メルヴィナはこのままじゃ見つかるって。
今ならまだ間に合うって。今隠れれば、ソニアと俺は助かるって言うんだよ。

俺は嫌だ嫌だって言って、背負ったまま前に進もうとしたんだ。
そしたら、メルヴィナが暴れてさ、地面に落ちてしまったんだ。
すぐにまた背負おうとしたんだけど、メルヴィナがあばれて、背負えないんだよ。何するんだって言ったらさ、お願いだから隠れて!って。俺とメルヴィナが見つかったら、ソニアはどうなるって、このままじゃ全員捕まっちゃうって叫ぶんだだから二人だけでも逃げてって泣きながら叫ぶんだ。

俺は弱虫なんだよ。俺はメルヴィナの所に留まっておくべきだったんだ。
それなのに、体が勝手にソニアの所に向かってるんだよ。
何やってるんだよ やめろって自分にいっても、体が勝手に逃げちゃうんだよ。

ソニアの所へ入る直前か、直後かわからない。
隠れて振り返ったら、戦車が向かってきていた。
メルヴィナは俺が隠れたのを確認したら、横になりながら体を動かして俺達の方向に背を向けたんだ。

頼むから味方でいてくれって、敵だとしたら、気づかないでそのまま通り過ぎてくれってそう祈った。だけど、現実は全然幸運なんてないんだよ。思ったとおりにならないし、神様なんていなかったんだ。戦車はメルヴィナの横で止まって、上からスルツキの軍服を着た兵士が出てきたんだ。

【外務省のHP見てた
>1992年4月、BHの独立を巡って民族間で紛争が勃発し、3年半以上にわたり各民族がBH全土で覇権を争って戦闘を繰り広げた結果、死者20万、難 民・避難民200万と言われる戦後欧州で最悪の紛争となった。
これか・・・

そんで
>日本は、1996年1月23日にボスニアを国家承認し、同年2月9日に外交関係を開設した。
っつーことは当時は日本大使館もなかったわけか。】

【ごめん。あんまり細かく書きたくない。ごめん。】

降りてきた兵士はさ、メルヴィナの事を蹴ったんだ。メルヴィナは濁った叫び声を一瞬だしてさ、生きているって確認した兵士は、笑いながら何かを言った。そしたらもう一人、兵士が出てきて、暴れるメルヴィナを叩いて、服を脱がせて乱暴したんだ。たった8歳の少女に乱暴したんだよ。
メルヴィナは泣き叫んでもおかしくないのに、自分の口を手で押さえて、叫ばないようにしてるんだよ。

俺らに助けを求めないように、俺らが見つからないようにしてるんだよ。
自分が酷い目にあってるのに、怖くて痛くて辛いはずなのに、メルヴィナは自分よりも俺達を心配して、自分の口を押さえてるんだよ。

俺とソニアを助ける為に必死に耐えてたんだ。

すぐにでも飛び出さなきゃいけない。助けなきゃいけない。
でも、それをしたらメルヴィナの行動は全て無駄になってしまう。
俺には決断できなかった。何でこんな選択をしなきゃいけないんだって、山中の生活を通して、感情をあまり外に出せなくなっていたソニアや俺は泣きながら見ていることしか出来なかった。

これが戦争なんだって。これが人間なんだって。これが神様の作った世界なんだって。
神様なんて、残酷な悪魔だと思った。

俺は本当に無力で、何も出来ない弱虫で、本当は俺があそこで殺されているべきなのに、俺はメルヴィナに代わって死ぬほどの勇気を持っていなかったんだ。
持っていたとしても、それは本当の勇気だとか決意じゃなかったんだ。

日本に居る頃は、自分は何でも出来る、やろうと思えば何でも出来る人間だと思っていた。
だけど、実際の俺はあまりに無力で何も出来ない弱虫だったんだ。

ソニアはずっとごめんなさいと繰り返し言っていた。
俺は、メルヴィナが乱暴されて、連れ去られるのを見ている事しか出来なかった。
この時だったよ。今まで憎しみだとか、悲しみだった心が、自分には抑えられないぐらいの怒りと殺意みたいなのに変わっていた。絶対にあいつらをころすって。
ころしたいって。

【でもこれで祐希がそいつらを殺したら
今度はそいつらの遺族が祐希をぶっ殺したいって思うよね】

【だから俺は書いて誰かに伝えなきゃいけないんだ。
それを誰かに伝えて、何かを感じて欲しいから書いてるんだ。
もう少し待って、そしたら俺が伝えたいことが、何となくわかってもらえるかもしれないんだ。】

それから数時間くらい、俺とソニアはそこから動けないでいたんだ。
だけど、ここにずっと居たって何も変わらない。
俺とソニアは手を繋ぎながら、轟音止まない方向へ向かった。
世界は不幸なことばかりじゃなくて、幸せもあるかもしれない。
だけど、不幸幸せ不幸みたいに、交互に来るとは限らないんだ。
俺達は、ずっと目指していたゴラジュデに、沢山の大切な犠牲を払って辿り着いたと思ったよ。だけど、街には入れないんだ。

http://www.youtube.com/watch?v=ydUA7w8XGAs
紛争時のサラエヴォの映像
祐希はこんな状況の中、街に居ることもままならなかったんだな】

【というか、この動画でなんでこの人たちこんなところにいるの?
なのに、子供だけで山の中放浪って・・・】

【街から出れないからだよ。陸路で街に入る事も、出ることも出来ないんだよ。
包囲された街に残された人々には、包囲が解けるのを待ち続けて、生き抜くしかないんだよ。援軍も見込めない中、いつ包囲が解けるのか、それとも死ぬのか、わからないままそこで生き抜くしかないんだ。】

近づくことも出来ないんだ。もう、街はスルプスカの軍に包囲されて、攻撃を受けていたんだ。山の中にもスルプスカの兵士が大勢居て、全ての希望を打ち砕かれてさ。声も出なかった。

ここに留まることも、街へ入ることもできない。
俺とソニアは、世界で二人だけ取り残された気分になってさ、でも諦めたら駄目だって。自分に言い聞かせて、ゴラジュデから離れて延々と、山の中をあり着続けたんだ。

ごめん。山の中を歩き続けたんだ。

ここらへんは、日記もちゃんとかいてなくてさ、何日歩き続けたかわからない。
でも、今思えば、約2ヶ月くらい山中で生活した経験がなかったら、俺とソニアはここで死んでいたと思う。

歩き続けて何日目かわからないけどさ、小さな川というか湧き水みたいなところがあって、そこで休んでいたら、銃をもった人が駆け寄ってきたんだ。スルプスカの兵士かと思ったけれど、そうじゃなくてさ、ボシュニャチの民兵の人たちだった。

それから93年の10月くらいまで、一年半くらいボシュニャチの民兵の人と行動を共にしたんだ。
俺はさ、彼らと過ごして1ヶ月ほど経った頃に、俺も戦わせてと頼んだんだ。
何でもするって。死んでもいいって。だから俺も戦わせてって頼んだんだ。

【祐希よ
楽になるために書くならまだしも辛い思いをして書くこたねえと俺は思うぞ】

【辛くても書かなきゃいけないから書いてるんだ。
これは俺の為でもあるんだ。】

勇気を出すって。勇気を出して戦う。もう逃げないって。だからお願いって。
でも、彼らはそれを許してくれなかった。中学生くらいの子どもにも銃を持たせているのに、何で俺は駄目なのかってしつこく聞いたんだよ。スルプスカの兵士が許せないって。
そしたら、名前は書けないけど、民兵の一人が俺に言うんだ。

戦いに勇気なんて必要ない。
生きる事にこそ勇気が必要なんだ。
君は戦う以外にも出来る事があるだろう。
君だから出来る事があるだろう。
俺達は戦争が終わるまで生きていられないだろう。
君は、ここで何が起きたかを伝えなさい。
同じ事が起きないように。
辛くても生き抜いて、そして胸を張って友人に天国で会えるようにしなさいって。

彼らと過ごした間、俺は色んなものを目にした。
俺の中で、この時スルツキの人々や軍、警察、民兵は絶対的な悪のような存在になっていたんだ。そして、ボシュニャチは被害者だと。
だけど、違ったんだよ。民兵の人たちはさ、スルツキの集落を襲って、食料を奪ったり、スルツキの大人や子どもを殺害したり、女性をレイプしたりしていたんだ。

俺はわからなくなっちゃったんだ。何が正しくて、何が間違っているのかとか。
何が悪で、何が正義なのか。あんなに被害を受けて、その苦しみを知っているはずの人たちが、同じ事を、相手の民族に、人々にするんだ。

俺は、何でそんなことをするの?やめようよって何度も言った。
それはやっちゃいけないことだよって。

そういうと、決まって民兵の人は悲しそうな顔をしてさ、そんなのはわかっているんだって。でもこうしないと、自分達の仲間が同じ目に合うって。
矛盾に気づいているのに、それをしなければいけない状況だったんだ。
ボシュニャチもスルツキも。
俺はこの時、まだ彼らの紛争の歴史も何も知らなかった。
前にも書いたと思うけれど、スルツキの人々も同じように、歴史上で何度もこういった虐殺の被害に合ってるんだ。どちらも被害を受ける苦しみや怒り、恨みをしっているのに、それでも尚、お互いにそうしなければ、やられる状況になっていたんだ。

恨みや禍根は残されたまま、次の世代へと引き継がれて、また同じ悲劇を繰り返している。
それがこの時の紛争だったんだ。

前に、国は3つの勢力に別れたって書いたよね。
ボシュニャチ、フルヴァツキ、スルツキの3勢力に。

ボシュニャチとフルヴァツキは最初は味方同士のような感じだったけれど、連携は取れていなくてさ、国内で、つまりヘルツェグ=ボスナではフルヴァツキの軍や人々によって、ボシュニャチやスルツキの人々が虐殺された。
一つの民族が、一方的に虐殺するのではなく、お互いに民族浄化の応報を繰り広げていたんだ。

【レイプする必要あんのかよ】

【レイプは単に性的欲求を満たす為の行為じゃないんだ。
敵対する、憎む民族の女性をレイプする、それは自分達の民族が、敵対する民族に勝利する、やっつけるといった優越感を示す行為でもあったんだ。
だから、女性は標的になったんだ。】

9月に入ると、フルヴァツキとスルツキの二つの勢力が同盟を結んでさ、ボシュニャチは二つの民族から挟まれる状況になったんだ。
その理由は、フルヴァツキの人々も、自分たちによる、自分達の国が、このボスニア・ヘルツェゴビナの領内で欲しかったんだ。そして、最初は共に戦ってもヘルツェグ=ボスナ内でスルツキの人々が一掃されて、領地の争いが減ったんだ。フルヴァツキからすれば、次はボシュニャチだったんだ。

10月の中旬ぐらいだった。
ボシュニャチの勢力は、スルツキ・フルバツキの二つの勢力に挟まれ、絶望的な状況になっていた。
俺はそういった経緯は、日本に帰ってきてから知ることになったけど、この時、自分達がかなり追い詰められているというのは何となく認識していた。

俺とソニアが一緒に過ごしていた民兵達の部隊も、人数がどんどん減っていって、人手が不足していた。この日も、殆どの人が離れた街に行ってしまって、拠点としていた洞窟には十数人しか残っていなかったんだ。

もう秋になって、辺りが暗くなる時間も早くなってきていた。
拠点に残っている大人はさ、殆どが負傷した人だったんだ。
だから、俺は暗くなる前にさ、水を汲んでくる必要があった。
この時、ソニアも一緒につれて行けば良かったんだよ・・・。
だけど、誰かが負傷した人を見てなきゃいけなくて、俺が水を汲んできて、その間ソニアが負傷した人を看ているってするしかなかったんだ。

水を汲む場所までは、山を下らなきゃいけなくて、子どもの足で往復4時間くらいかかるんだ。
水を汲んで洞窟の近くまで来た時には、もう辺りは暗くなっていた。
ソニアはちゃんと看てるのかなって心配しながら、水汲んできたよって洞窟の中に入ったんだ。

だけどさ、洞窟の中に明かりが点いてないんだ。もう外は暗くて、洞窟の中も真っ暗なのに、明かりが点いてないんだよ。最初はおかしいなって思ったんだ。だけど、ソニア疲れて寝ちゃったのかって。ちゃんと看病しなきゃ駄目じゃないかって。
ソニアちゃんと看ててって言ったでしょって言いながら、スイッチを押したんだ。

だけど、明かりが点かないんだ。何回押しても点かないんだ。俺さ、民兵の人たちと過ごしている間、前のように本当に危険な目に合う事が殆どなかったんだ。
ソニアを守るって、だからどんな時でも俺はソニアから離れちゃ駄目だし、どんな時でも警戒して、気をつけてなきゃいけないんだ。
でも、馬鹿な俺はその大切なことも忘れて平和ぼけしてさ、それを怠ったんだ。
信じたくなかった。ただ電球が切れただけだと思いたかった。

確かめるのが怖かった。誤解であってくれって、神様どうか誤解であってくださいって祈ったんだ。だけど、洞窟の奥に進んでいくに連れて、真っ暗で何も見えなくても、嗅いだ覚えのある臭いがするんだ。錯覚だって。これは錯覚だって。気のせいだって。
でも、うめき声とかも微かに聞こえてきて、何かが焼ける臭いもしてきてさ、気づいたら両手に抱えていた水の入れ物を落としていた。

ソニアの名前を何度も呼んだんだ。ソニアソニアどこにいるのって。隠れないで出てきてよって。
だけどソニア全然出てこないし返事しないんだ。

酷い話だけどさ、横で兵士の人がうぅって苦しそうに声を出していたんだ。
だけど、俺はそれどころじゃなかったんだ。必死に地面に這いつくばって、ソニアが居ないか手探りで探したんだ。何人か、冷たくなった大人の死体とかに触れたけど、それに驚いたり気遣ってたりする余裕なんてなかったんだ。

どれくらい探してたのかわからない。もう時間の感覚とかもよくわからなくなっていた。
気づいたら、洞窟の奥まで来ててさ。壁に手を付きながら探していたら、小さな体に触れたんだ。
すぐにわかった。夜になると、いつも一緒にくっ付きながら寝てたんだ。すぐにソニアだってわかった。

頭が真っ白になって両手でソニアに触れたんだ。でも、ソニアの体は温かかったんだ。

息もしていて、ソニアは生きていたんだ。良かった。何が起きたかわからないけど、ソニアは生きてる。
良かったって。ソニア大丈夫?って声をかけたら、小さい声でうん。って言ったんだ。

離れてごめんねって。ソニアを追いて水汲みにいってごめんって言いながら、ソニアを抱き寄せたんだ。

そしたら、手に生暖かい液体がついてさ、最初は何かわからなかった。でも臭いを嗅いだら、血ってすぐにわかったんだ。慌ててソニア怪我してるの?ソニア大丈夫なの!?って聞いたんだ。
ソニアはまた小さな声で、うん。って言ったんだ。俺は急いで傷の手当しなくちゃって思って、洞窟の中は暗くてよく見えないから、ソニアを背負って外に出ることにしたんだ。

ソニアの体がいつもより軽く感じて、そしてソニアの体から垂れる血のピチャ、ピチャ、って音が、洞窟の中で響いていたんだ。不安になった。だけど、ソニアは返事をしているし、ちょっとした怪我なんだって、ちょっとした怪我だって、悪いことを考えないように必死に自分に言い聞かせたんだ。

洞窟の外に出た時は、もう外も真っ暗で、月が綺麗に輝いていたんだ。
俺はソニアを草の上に下ろしたんだ。最初は見間違いかと思った。
だけど、何回目をこすってもさ、ソニアのお腹から血が一杯出てるんだ。

頭の中で理解できないような色んな感情とかが渦巻いてきたんだ。だけど、血を止めなきゃって。俺は上着を全部脱いで、ソニアの上着を捲ってさ、血を止めようとしたんだ。そしたら、ソニアのお腹に大きな穴が何個も空いてて、そこから沢山の血が流れてたんだ。俺ってば、分厚いコート着ててさ、背負ってるのに、こんなに血が出てるのに気づかなくて・・・

シャツでソニアのお腹を抑えたんだけど、全然血が止まらなくて、どうしようどうしよう、誰か来てよって泣きながらソニア大丈夫だよ大丈夫だよって何度も叫んだんだ。

でも血が止まらないんだ。そしたら、ソニアが血を口から垂らしながら、うん。だいじょうぶ。って言ってさ。 しゃべっちゃ駄目って言ってるのに、小さな声で喋り続けるんだよ。月が綺麗だねって。どうして祐希泣いてるのって。

ソニアを心配させちゃ駄目だって思って、泣いてないよ。だから喋らないでって言ったんだ。
だけどソニアはそれでも話すのをやめなくて、声を出すたびに血が溢れてくるんだ。
混乱してて、慌てて、怖くて、正確には覚えてないんだ。だけど、ソニアは昔の話をしだしてさ。

特別な日覚えてる?って。俺すぐには思い出せなくて、何?って言ったんだ。そしたら、祐希にお友達になってくれたお礼をした日って言うんだ。
俺は覚えてるよ。忘れるわけないじゃんって泣きながら答えたんだ。
そしたら、ソニアはちょっと笑いながら良かったって言って、あの時も綺麗な月だったねって。

俺はうまく言葉が出せなくて、うん、うん、って相槌しか打てなかったんだ。
それでもソニアは喋り続けて、ずっと一緒にいれなくてごめんねって言うんだ。

ソニアはわかっていたんだ。自分が大怪我して、もう助からないってわかってたんだ。
もう俺は何て言葉を返したらいいかわからなかった。

ソニアは、もうお腹押さえなくていいって、その代わり手を握ってって言うんだ。
もうソニアは手に力が入らないみたいで、俺の手を握り返せないんだ。

手を握ってさ、目の前にいるのに、ソニアが言うんだ。
祐希、ちゃんと手にぎってる?そこにいる?って。

俺はちゃんと握ってるよ。隣にいるよって答えたんだ。

そしたら、そっか。良かったって言ってさ、ごめんね、ありがとうって小さな声で言った後、何も喋らなくなったんだ。

息はまだしてたんだ。もし医者がいれば、医者じゃなくても大人が居ればソニアは助かるかもしれないんだ。
でも、俺は何も出来ないんだよ。大切な子がソニア以外いなくなったり死んじゃったりして、もうソニアしかいないのに。たった一人の大切な人なのに何も出来ないんだよ。

ソニアの息が少しずつ弱くなって、体が冷たくなっているのに、横でただ泣きながら見ているしか出来ないんだよ。

俺は目の前で起きた現実を受け入れることが出来なかった。
やらなければいけない事は沢山あったんだ。
洞窟の中にはまだ生きている民兵の人がいたんだ。

でも俺はソニアの傍から離れる事が出来なかった。

この日まで、沢山の人に助けられて生き延びてきた。
沢山の人の、仲間の友達の犠牲の上で、生きてきたんだ。
なのに、何もお返しも出来ずに、逃げてばかりで、まだ生きている民兵の人だけでも助けなきゃいけないのに、その人たちに助けられて、今まで面倒をみてきてもらっていたのに、頭で理解してても何も行動できないんだ。

気づいたら朝になっていて、洞窟の中でまだ息のあった人たちも、皆亡くなっていた。
もう心が耐えられなかった。情けない自分が、同じ過ちを何度も繰り返す自分が許せなかった。

それから数日間、ソニアや民兵と一緒に過ごしていたんだ。
でも、外に出ていた民兵の人は誰も帰ってこなくて、もう全てが終わった事に気づいた。本当はとっくに気づいていたけど、もう現実を受け入れるほど俺の心は強くなかったんだ。

それから、少しして、俺は皆の遺体を埋めることにしたんだ。
スコップとかがないから、木の棒でひたすら彫り続けて、全員の遺体を埋めるには数日かかった。

俺ムスリムじゃないからさ、お墓に何をすればいいかわからなかったんだ。
だから、棒を立てて、咲いていた花を移して植えるぐらいしかできなかった。

ボシュニャチの民兵の人に、辛くても生き抜けって言われたけど、もうそんな気力もなかった。もう全てを失って、希望だとか光も何もないんだ。
その場で死のうと思って、銃を探したんだけど、銃が全部なくなってるんだ。

少量もとっくに尽き果てていて、飲まず食わずでいた俺は、もう疲れて眠くなっちゃってさ、そのままソニアを埋めた場所の前で寝たんだ。

目を覚ましたら、夢の中みたいで、どこかの家のベットに寝てたんだ。
おかしいな、これは夢なのかなってそれとも今までのが夢なのかなって思ってたんだ。
そしたら部屋の中に中年ぐらいの女の人が入ってきてさ、何か俺にいいながら、水とか食べ物をくれたんだ。

それから少しして、これが夢じゃないってわかってさ。
俺は山で倒れていた所を、スルツキの民兵に保護されて、そこから結構離れた民兵の暮らす集落に連れて来られていたんだ。

もう死にたいって思ってた俺はさ、スルツキの民兵がソニア達を撃ったんだろって、絶対に許さないって暴れたんだ。

でも、この家の奥さんや、民兵の旦那さんは悲しそうな顔しながら、自分たちはしていないって言ってさ、俺が暴れてるのに抱きしめてくるんだ。

俺は嘘つきめ、嘘つきめって叫びながら暴れたんだけど、離してくれなくてさ、寝るって言って部屋に篭ったんだ。

それから何日も、部屋にもって来てくれたご飯とかも食べないで、ずっと篭っていてさ、そうだ、ここから逃げればいいんだって思ったんだ。
それで夜になるのを待って、窓から外に飛び出して、辺りを見渡したら、十何キロ先かわからないけど、前いた山っぽいのが見えたんだ。

俺はソニア達の所に戻らなきゃって、あそこに戻らなきゃって思って、山に向かったんだ。
途中で、道がわからなくなったりして、何とか洞窟についた時には3日以上経っていたと思う。

その後、2日くらいまた洞窟で一人過ごしていたんだ。
そしたらさ、集落の民兵の人が来たんだ。
気づいた時にはもう洞窟の入り口の所まで来ていて、逃げ場はなかった。

ああ、俺も撃たれるんだな、良かったってほっとしたんだ。
だけど、彼らは俺を撃たないんだ。撃たないどころか、一人で何してるって怒るんだよ。
意味がわからないんだよ。お前らスルツキは子どもでも女の人でも殺して、子どもに乱暴だってするだろって。俺の事も同じようにしろって泣きながら叫んだんだ。

だけど、彼らはただ無言のまま俺を担いでさ、洞窟から連れ出そうとするんだよ。
嫌だ嫌だって言っても離してくれなくて、バックがバックがだから離しせって言っても離してくれなくてさ。バックはどれだって言うから、答えたら、俺が預かるとかいってさ、俺の事を下ろさないまま山を下ったんだ。
疲れていたのもあって、俺は途中で寝ちゃってさ、起きたらもう集落のすぐ近くまで来てたんだ。

その後、また同じ家に連れて行かれて、家に入ったら、あの二人が怒りながら俺の事をビンタしたんだ。
それから俺の事、この前よりも強く抱きしめてきて、また暴れようとしたんだけど、力が強くて暴れられなかった。

それから知ったことなんだけど、この集落の人たちは元々民兵じゃなかったんだ。
ボシュニャチの民兵に襲われて、村の女の人や男の人、子どもも何人か殺されたり連れ去られたりして、それで武装してたんだ。俺を世話してくれた夫婦にはさ、俺よりちょっと年上ぐらいの子どもがいたんだ。
だけど、彼は襲われた時にボシュニャチの民兵の人に殺されてしまっていてさ…。
その時、漠然と皆が苦しんでるっていう感じだったものがさ、スルツキの人も苦しんでいるんだ、被害にあってるんだ、皆が辛いんだって確信に変わったんだ。

多分だけど、俺がお世話になっていたボシュニャチの民兵の人達なんだ。
この集落を襲ったのはさ。そして同じような事を他の集落でもやっていたんだ。

中には、本当に悪い奴もいて、虐殺や暴行、レイプをしている人間もいるんだ。
それは否定しようがない事実なんだ。そしてスルツキが今回の紛争で大勢のボシュニャチの人々を殺してたり、暴行したり、レイプしたのも事実なんだ。だけど、彼らもまた、同じような被害にあってるんだ。

自分達を守る為に、家族を守る為に、お互いにお互いを殺しあってるんだ。
望んでいるのは、形は異なっていても、同じ 平和に暮らす ってことなのにさ。

でも、昔に起きた虐殺や戦争の禍根が未だに残っていて、それがお互いの理解とかそういうのを邪魔するんだ。積もりに積もったものが、阻むんだ。

今までの歴史が、彼らに人を殺させるんだ。やらなきゃ、やられるって思わせるんだ。

それから俺は、彼らと1年ちょっと生活した。
スルツキの人を憎む気持ちは薄れることはないんだ。
だけど、彼らにも彼らの事情があって、それを俺は否定出来ないんだよ。
否定する事が出来ないんだ。少なくとも、全員が望んで人を殺しているわけじゃないんだ。
罪悪感とかそういうのと戦いながら、それでも殺さなきゃいけないって、それで相手を殺している人たちもいたんだ。

彼らと暮らして半年ぐらい経った頃だったと思う。
アメリカを始めとするNATOが、スルツキの勢力下の地域に爆撃を始めたって聞いた。
後で知ったけどさ、もっと前から国連として活動はしていたんだけど、遅すぎるんだよ。もう何もかもが遅すぎるんだ。

そして彼らと暮らして大体1年2ヶ月ほど経って、1994年の12月になったんだ。
1月から停戦になるから、祐希はサラエヴォへ行って、そこから国に帰りなさいって言われたんだ。

でも、俺はもう嫌だった。というより、これから先、全てを背負って生きていく自信がなかったんだ。

集落を出発する朝、俺を世話してくれた夫婦とか、民兵の人が集まってくれたんだ。
だけど、俺はもう無理だって、もう死にたいって思ってさ、頼んだんだ。
頼むから俺を殺してって。痛くても我慢するから、殺してって。大切な友達達も皆いなくなってしまったのに、生きていても辛いって言ったんだよ。

そしたら、周りの兵士たちもお世話をしてくれた二人も悲しそうな、少し困ったような顔したんだ。そしてお互いに見つめあいながら、何かを早口でいってさ、俺を取り囲んだんだ。

俺はソニア達に、もうすぐそっちに行くよって、心の中で呟いたんだ。

やっと終われるって思ったんだ。

だけどさ、彼らは俺に何かをするわけでもなく、歌を歌いだしたんだ。

何が起きたかわからなかった。違う国の言葉だし、意味もわからなかったんだ。

意味を知ったのは、日本に帰って数年してからっだ。

今、youtubeのを貼るけれど、クリックして聞くのは、日本語訳を書くまで待って欲しいんだ。
歌を聴きながら、日本語訳を目で追ってくれれば、俺が伝えたいこと、彼らが俺に伝えたかったことがわかってもらえるかもしれないから。

http://www.youtube.com/watch?v=ZKfH8Tvt-AY

歌詞はね、

I see trees of green, red roses too
I see them bloom, for me and you
And I think to myself, what a wonderful world

I see skies of blue, and clouds of white
The bright blessed day, the dark sacred night
And I think to myself, what a wonderful world

The colors of the rainbow, so pretty in the sky
Are also on the faces, of people going by
I see friends shaking hands, sayin' "how do you do?"
They're really sayin' "I love you"

I hear babies cryin', I watch them grow
They'll learn much more, than I'll ever know
And I think to myself, what a wonderful world

Yes I think to myself, what a wonderful world
Woo yeah

日本語訳です。音楽を聴きながら、読んでみて下さい。

青々とした木々、そして真っ赤に咲くバラが見える
僕と君のために、咲き誇っているよ
僕は自分に語りかけるんだ、「なんて素晴らしい世界なんだろう」って。

青い空、そして真っ白な雲が見えるよ
光り輝く日が訪れ、夜がやってくる
僕は自分に語りかけるんだ、「なんて素晴らしい世界なんだろう」って。

美しい虹が、大空に架かっている
道を行き交うみんなの顔も輝かせているよ
人々は「元気かい?」と手を振りながら握手をしているよ
皆心の中で「愛しているよ」と言っているんだ

赤ちゃんの鳴き声を聞き、その成長を見守るんだ
この子たちは皆、僕が知らない世界も目にしていくんだろう
そして僕は思うんだ、「なんて素晴らしい世界だろう」って。

そう、僕は思うんだ。「なんて素晴らしい世界だろう」って。

この歌はさ、今の戦争の世界が素晴らしいって言ってるんじゃないんだ。
きっと、世界は素晴らしくなるんだ。そう皆が願い、思えば、素晴らしい世界になるんだって意味なんだ。愛でね。

皆、好きで殺してるわけじゃないんだ。そうしないと自分達の仲間が子どもが殺されてしまうからなんだ。そして、相手も同じなんだ。

それをお互いにわかっているんだよ。わかっているのに、止められないんだ。
泣きながら歌ってるんだ。ボシュニャチやフルヴァツキを殺した民兵たちが泣きながらさ。
彼らは好きで殺してるわけじゃないんだ。そしてそれが許されない行為だと知っているんだ。知っていながら、どうすることも出来ないんだ。お互いにね・・・。

この時、英語が理解できていれば、彼らに何か言えたかも知れない。
でも、当時の俺には何の歌かわからなかったんだ。悲しい歌なのかと思った。
平和を願う歌とは知らなかったんだ。

その後、俺はサラエヴォまで連れて行かれてさ、解放される時に手紙を貰ったんだ。
その手紙の内容は、ちょっと長いから要約するけど、

人生は不公平だ。一生平穏に暮らす者もいれば、一生紛争や貧困に喘ぐ者もいる。
だけど、人生には、神様が皆にチャンスをくれるんだ。学校やお父さん、お母さん、大人や友人、彼らは何度でも君にチャンスを与えるんだ。それを活かすかどうかは、君次第なんだよ。

小さな贈りものになるけれど、私は君に生きるチャンスを与えよう。
強く優しく、そして誠実に人生を全うしなさい。そして、素晴らしい世界を作りなさい。子どもが笑いながら育つ世界を。
君達子どもに託そう。素晴らしい世界を。

こんな感じの内容なんだ。

その後、1995年1月から4ヶ月の停戦が結ばれ、俺は首都で再会した父と共に、オーストリアに向かい、後に日本に帰ってきた。
結局、この一連のボスニア・ヘルツェゴビナ紛争が終結するのは、俺達がこの国から脱出した10ヶ月後の事だった。

1995年7月、安全地帯となっていたスレブレニツァが包囲され占領されたんだ。
多くのボシュニャチが処刑、強姦、拷問され、生き残った中から一部の女性は解放されたけれど、男性は殆どが順次処刑されていった。

殺されたのは、大人、子ども、男女、老若女男問わず虐殺されたんだ。
犠牲者は、8000人を超えていて、未だに身元がわからない人も多く居る。
もし、サラエヴォから脱出できなければ、僕らはそこにいたかもしれない。

良い人もいれば、悪い人もいる。スルツキが憎い。憎いけど、全てのスルツキが悪というわけじゃない。
どうしたらいいんだ。どうやって生きていけばいいんだ。平穏な日々に戻ってからも、それを悩んでいた。
そして、いつの間にかドラガンに責任を押し付け、うらんで、生きていくようになった。

それも間違いだった。前に書いたとおり、彼は裏切ってなんか居なかった。Facebookで彼の弟を見つけ、コンタクトを送ったら、俺達がカリノヴィクで襲われた日に、彼は殺されていた。俺達を庇おうとして。
俺達を庇ってくれた仲間を裏切り者として、15年以上も憎んできた、「ずっと仲間だ」って約束したじゃないか、それなのに、その言葉を忘れて、俺が彼を裏切っていたんだ。

今までの人生が全て崩れるような感覚に陥って、俺はもう生きていけないと思った。罪悪感だけじゃない。
俺には荷が重過ぎるんだよ。気づいたら、会社に退職願を出していた。

丁度さ、いい機会だったんだ。ドラガンの弟から、サニャとかの家族の現住所も教えてもらえてさ。
サニャとカミーユの家族は、全員ではないけれど、生きていたんだ。
だから、まずはドラガンのお墓で謝って、そしてドラガンの家族に謝罪して、そして感謝を述べて。

それでさ、その後は、カミーユの家族に会いに行って、サニャの家族に、サニャの遺品を渡してさ。
全てを終わらせようと思ったんだ。

ただ、ボシュニャチの人との約束の一つ、話を広めるというのは俺には出来なかった。
そして、もう時間もなかった。だから、こうして色々考えた末、vipにスレをたてて、今に至るんだ。

もし何かを感じてくれれば、それでいい。

欲ではあるけれど、俺自身、彼らが何を伝えようとしていたか、そして俺が何を伝えればいいか考えて、それを少しでも感じ取ってくれれば、なお嬉しい。

大切なのは、素晴らしい世界を願い、それを伝えて、実現に近づけていくことなんだと思う。
文章を書くのが苦手な俺には、俺の気持ちだとか、どんな事が起きたかを上手くは伝え切れなかったと思う。
だけど、もし、読んでくれた中で、何か感じるものがあったとしたら、バルカン半島、ボスニアのことにも少し目を向けてくれると嬉しい。日本だからこそ出来る事があると思う。

断罪するだけではなく、罪を犯してしまった民族にも、救済の手を、救いの手を差し伸べて欲しいんだ。
それは偽善かもしれない。それは意味がないことかもしれない。だけど、今ある禍根を…もしだよ。
もし取り除くことが出来れば、いつか素晴らしい世界になるんじゃないかな。
僕はそう思うんだ。

彼らが歌ってくれた歌に、そのヒントがあるような気がしたんだ。

”この子たちは皆、僕が知らない世界も目にしていくんだろう”

彼らが知らない世界、それは、民族融和かもしれない。
でも、それは簡単なことじゃないんだ。

恨みや禍根は、今現在一時的に裁きによって蓋をすることが出来たかもしれない。
だけど、それが消えたわけじゃないんだ。

行いが間違っていても、全ての民族に正義や大義名分があったんだ。一方的に絶対悪にして断罪しても、その恨みや禍根は蓋で隠されているだけで、子どもたちに継承されていくんだ。

子どもたちに継承された恨みや禍根が、何度も、何度も同じ悲劇を繰り返してきたんだ。

それを断つには、周りの、世界の人々の手助けが必要だと思う。
そして、そういった時に、日本だからこそ出来ること、日本だからこそ手助け出来る事があると思う。パレスチナとイスラエルの子どもを結びつけたように。

最後になるけれど、この紛争で亡くなった全ての方々のご冥福をお祈り申し上げます。

このスレは、約束を果たすケジメみたいなものだからさ。
読んで何かを感じてくれた人に、ボスニアについてもっと関心を持ってもらえれば、それで俺の役目は果たした事になると思う。

俺が伝えたかったのは、ボスニアの話であって、俺の事じゃないんだ。ごめんね。
別に悲観的になる必要はないんですよ。安心してください。大丈夫です。

【すまんいくつか質問させてくれ。答えにくかったらスルーで構わないから

メルヴィナの行方は分からないままか
祐希は向こうで死ぬつもりなのか
もし何らかの形でこの話が金銭を生んだ場合、祐希が望む使い道(出来れば「勝手に使ってくれ」という解答以外で)】

【メルヴィナの行方はわからない。
ドラガンの弟も知らないんだ。
探しても、どこにも情報がないんだ。

あっちに行ったら、探してみようとは思う。

出来れば、ボスニア・ヘルツェゴビナの為に使ってくれると嬉しい。
民族融和の活動もやっていたと思うから。

今、あの国は綺麗に民族の分布といったら失礼だけど、住んでいるところが綺麗にわかれているんだ。
そして未だに問題は解決していない。あっちの偉い人が言ってたけど、未だに「世界の火薬庫」のままなんだ。それを解決する為に使って欲しい。

それじゃ、長い時間、そして長文なのに最後まで読んでくれてありがとう。】

【待ってくれよ、まだわかんねえよ
なんで祐希まで死ななきゃなんねえんだよ
大丈夫じゃねえよ・・・】

【祐希乙
最後まで書いてくれてありがとう!
ボスニアの事、俺ももっと調べてみるよ
でも、この民族の架け橋役は祐希ほどの適任はいないと思う】

【多くの人が目にするvipにスレを立てたことは間違ってないと思うよ
実際、俺はこの戦争に興味を持って話に耳を傾けているし知るきっかけを作ってくれたお前に感謝してる
でも祐希がこれから出会う人々、嫁、子供、孫に直接話し聞かせてやるって選択肢も間違いじゃないと思うよ
とりあえずカミーユやドラガンたちが命を張って守ってくれたお前の成長した姿を胸を張って見せてこい
何年恨んでたってドラガンとは謝っても許してくれないって仲じゃなかったんだろ】

【祐希乙 考えるきっかけをくれてありがとう】

【お疲れさま、書ききってくれて本当にありがとう
託された命、終わらせないでね】

【ああ・・・。ごめん言い忘れてた。この話の全ては信じないで。
日記を元にしているから、実際は間違っている事もあるかもしれない。
こんなこともあったんだと、感じてくれればいいんだ。
自分自身で調べてくれるのが一番いいけどね。

俺よりも辛く壮絶な経験をした人は沢山いるんだ。
紛争を生き抜いた孤児たちは、心に大きな傷を負って暮らしているんだ。
それは一生消えることはないと思う。

さっきボスニアのためにっていったけど、こういった世界の子ども達や人々の為に、たとえ金額が少なくても寄付なり何なりしてもらえれば、嬉しいです。

俺の事は本当に大丈夫だから。心配しないで下さい。それじゃ、元気でね】

【聞きたいことが山程あるが、相応しい言葉が出て来んわ・・・】

【お疲れ。ありがとな
でもやっぱり俺が感じてた「書き終えた時の不安感」は残ってしまったよ
皆がくれた小さな贈り物は手放してほしくないなあ
できればまた日本に戻ってこいよ】

【乙
話を聞けて良かったよ
これからも生きていてな
おやすみ】

後日談

この物語にはさらに続きがありました。